【後編】DX推進におけるCIOの役割、外部ベンダーとの付き合い方とは?

■楽天グループ株式会社/副社長執行役員 グループエクゼクティブヴァイスプレジデントCIO & CISO 平井 康文 氏<パネラー>
■中外製薬株式会社/執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子 氏
■喜多羅株式会社/Chief Evangelist 喜多羅 滋夫 氏(元日清食品グループCIO)
「DX推進におけるCIOの役割について」イベントレポート後編です。
楽天グループ、中外製薬、日清食品グループなど名だたる企業でCIO、デジタル・IT統括部門長として活躍されてきた3名の方々に登壇いただき、語り合っていただきました。
ご登壇者紹介、またこれまでのDXに関する詳しい取り組みなどを語った前編はこちらをご覧ください。
目次
パートナーにも最大限協力してもらうためにはとにかく基礎固めが大事
楽天グループ株式会社/副社長執行役員 グループエクゼクティブヴァイスプレジデントCIO & CISO 平井 康文 様(以下、平井):では次のテーマである外部ベンダーとの付き合い方について、まずは私から問題提起をさせてください。
平井:上記のようなテーマで思いきり本音を語り合いたいと思いますので、まずは志済さんからいかがでしょうか。
中外製薬株式会社/執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子 様(以下、志済):ベンダーマネジメントという意味では、丸投げ体質はとにかくやめなければいけません。ベンダーの見積もりの言いなりのものがあったり、契約も請負ではなくタイム・アンド・マテリアル(工数単価方式)が多く、納期の遅延やコストオーバーランが派生するケースもありました。これは絶対に許せないということで、全部プッシュバックして、場合によっては私がみずから交渉をしました。
そのとき自分のベンダー時代の経験が生きたのは、やはり「やさしいお客様にはつい甘えてしまうということです。その逆に厳しいユーザーには「仕方ないな」と言いながら必死で対応するものです。そうした厳しいユーザーになるために、レビューや価格交渉、RFPの提出をしっかり行うなど、ユーザーとして基本のところからしっかりやるようにしました。
あと、私の場合はパートナーさんと一緒にプレスリリースをします。例えばAmazonさんやLINE WORKSさんとプレスリリースした実績がありますが、こういった動きによってベンダー的には自社のソリューションをユーザー事例として紹介できますし、中外デジタルとしてもビジビリティが上がります。
志済:もう一点取り組んでいるのがDigiTubeです。これは、ベンダーから「うちのソリューションについて30分でいいから聞いてください」というアポが山ほど入ることもあり始めました。隔週金曜日にベンダーが自社のソリューションを紹介する勉強会のようなもので、聞きたい社員がいれば好きに聞きに来ます。エンドユーザーからしてみると「いいな」と思うようなソリューションも結構あるんですよね。
こういった形でベンダーとWin-Winの関係を築き、ベンダー側の意向もくみ取るようにしています。
ツール導入をした後こそリソースを投じて協働してほしい
平井:では喜多羅さんお願いします。
喜多羅株式会社/Chief Evangelist 喜多羅 滋夫 様(以下、喜多羅):このお題をいただいたとき、自分はそもそもどういうベンダーとお付き合いして、どういうところにエネルギーをかけているのかを振り返ってみました。
喜多羅:付き合い方というのはこちらから相手に期待することと、相手から安く見られないようにすることの2つがあるのかなと思います。
私がいわゆるベンダーさんというか外部のパートナーに求めているのは上記のスライドにある3点です。一つ目はやはり「うちはこういうことができます」ではなく、ベンダーの持つソリューションがうちの会社のオペレーションにどこに当てはまるのか、について話をしてほしいということです。
もう一点は、ツールを導入した後ですね。大体の会社は契約するまでは必死なのですが、導入した瞬間にリソースを引かれてしまいます。しかし我々ユーザー企業からしてみれば、導入した瞬間はあくまでスタートでしかなく、本当に大事なのはその後にもともと期待していたメリットが出るかどうかです。二の手三の手をどうやって打つべきなのかを、ぜひ考えてほしいと思います。
もう一つが、Knowledge Transferに意欲的であること。我々は領域によって、社外パートナーに永続的に依頼する部分もあれば、社内で巻き取りたい部分もあります。例えばkintoneで社内の電子化を進めるような部分は、ワークフローを改善するたびに社外パートナーに見積もりを取っていては駄目だと思うんですよ。そこで内製化を進めようとしたときに、ベンダーには真剣に向き合ってほしいですし、「最終的にお客さんが自分で回せるようになるのが自分たちにとっての成功事例だ」と言ってくれるような会社と仕事をしたいなと思います。
外資系企業のソリューションを用いる際に起こる多重構造の問題
平井:外資系取引先本社との関係についても、皆さんのご意見を伺いたいと思います。日本で取引をするとき、特に新興系の企業は日本法人が株式会社にもなっていないケースがありますし、代表取締役社長ではなくカントリーマネージャーがいることもあります。また、営業とマーケティングのみの組織でテクニカルサポートがいないケースは必ず販売代理店が絡んでいます。こうした多重構造は効率が悪いですし、最新の情報がキャッチアップできないのですが、このあたりについてお二人は経験上どのようにお考えでしょうか?
志済:本社とやり取りできれば一番いいのですが、我々の場合は例えばインドの会社と丁々発止のやり取りをするようなスキルがありません。自社のデリバリー体制がどうかということになると、やはり日本のサービスプロバイダーに言ったほうが安心だという部分はありますね。
平井:当社の場合は英語が公用語でエンジニアの60%近くが外国人ですから、逆に日本語ではなく英語でお願いしたいんですよね。そうなると日本国内では難しいので、自然と本社とのリレーションを作っていくことになります。喜多羅さんはいかがですか?
喜多羅:日本企業が英語スタイルのコミュニケーションで外資系企業とのディールを行うのは、結構ハードルが高いんじゃないかなと思いますね。必要なソリューションがそこでしか扱っていない、特定領域でブレイクスルーを生むような価値のあるものであれば、社内リソースを持ち出してなんとか自社に取り込むしか無いかなと。
私はフィリップモリス時代に、とあるETLツールを世界標準で使うよう言われたのですが、それをサポートできる会社が日本で1社、1人のエンジニアしかいませんでした。3社くらいにサポートできる会社を探してほしいと依頼したのですが、必ず同じ会社の同じ人につながるんです。これでかなり懲りたので、その会社がどういう価値を出せるのか、本当にその会社にインベストすべきなのか、同じようなスタートアップ企業が日本に無いかを調べるといったアプローチを取っていましたね。
質疑応答
これからの時代はBIやRPAなど身の回りの領域から内製化に取り組むべき
質問者:社内ベンダーと対等に交渉できるメンバーがいない企業はどうしたらいいのでしょうか? 質問者:内製化についてどういう風にお考えでしょうか?
平井:上記2つの質問について、合算してお答えいただいても結構ですし、何かご意見いただければと思います。
喜多羅:私は実際にいろいろな企業にお手伝いに行っていますが、社内に交渉できるメンバーがいないと、適切な対応を取ってもらえないことはあると思います。
私がそこでやったのは、やはり仕事をするときの基礎を徹底的に強くすることです。例えば、あるプロジェクトではベンダー企業が完全にダレてしまっていて、多額の予算で動いているにもかかわらず、あたかも100万円程度のプロジェクト感覚で運営されていました。ですからとにかく会議体の設計からスケジュール・リスク・イシュー管理などをイチから行い、同じものを相手に求めようと話し、実施しました。すると社内的にもピリッとした空気が流れ、交渉もいい感じになりました。このように、外部のコンサルタントを呼べないのであれば、相手に簡単に手を抜かれないための力を蓄えるのが現実的なのではないでしょうか。
内製化に関して私がよく話すのは、「2つの領域は絶対に内製化すべきで、そのほかの部分は組織のキャパシティによって決めればいい」ということです。2つの領域というのはBIとセキュリティです。
BIについては、例えば売上速報一つ取っても、社内に「売上」と定義されているデータはたくさんありますよね。いわゆる「電算引き」が含まれていたりいなかったり、また販促金や協力金などを考慮した売上のうち、どれが意味のある数字なのかわかっていないと、売上レポートを作っても使い物になりません。ですからBIは本当に事業を理解している内部で開発し、それ以外のところは社外に依存するという形でよくやっていました。
情報セキュリティも同じです。会社にとって大事な情報セキュリティのフレームワークについては社内で考えなければいけないというのはもちろんですし、そもそもセキュリティ人材はなかなか採用できません。そういう意味で、セキュリティは意識して社内で押さえる必要があります。この2つは絶対に譲れないと考えながら内製化を進めてきました。
平井:「コア」と「コンテキスト」の議論ですね。志済さんはいかがですか?
志済:社内に外部ベンダーとやり取りする知見のあるメンバーがいない場合は、コンサルに高いお金を払わなくても、PMBOKなどさまざまなツールメソッドを学ぶ、あるいは研修を受けるといった方法があります。ひとたびコストオーバーランやサービスインのディレイが発生したときに、CIOや部長クラスが経営から責任を問われてしまうので、ここはやはり危機意識を持って備えるべきです。
内製化に関して私は喜多羅さんのようなポリシーはあまり無いのですが、やはり市民開発的な意味で、エンドユーザーの開発リテラシーは問われていると思います。数千万円かけてベンダー依存で進めるようなプロジェクトを自分たちでやるということではなく、ちょっとしたクラウドのビルダーを使ってアプリ開発をするだとか、RPAで自分の身の回りの仕事を自動化するといったことです。
そこに対する教育方法やツールは昔に比べれば数多く存在しますし、当社のイノベーションラボでも研修やツール提供をしながら徐々に内製化を進めているような状況です。
平井:ありがとうございます。楽天も楽天IDや楽天ポイントなど、コア部分に関しては全て内製化しています。
ベンダーと対等に交渉できるメンバーがいない場合の私のおすすめは、喜多羅さんが主催している武闘派CIOの会に参加することですね(笑)。CIOシェアリング協議会などもありますし、そういったところで得た知見を活用して、ユーザーがITベンダーに対して対等に物申せる土台を作っていければいいと思います。
最後にひとこと
孤軍奮闘せずCIOのコミュニティを活用するのがおすすめ
平井:では最後に、お二人から一言ずついただけますでしょうか。
喜多羅:今日はどうもありがとうございました。現代ほどITやイノベーションが世の中を動かしている時代は無いと思いますから、そういう意味で皆さんが今いるのは世界の中心です。ぜひ愛を叫んで、皆さんの会社、そしてこの国を良くしていけたらいいなと思います。
志済:私はベンダー時代、ユーザー同士にこんなにも多くのつながりがあるとは思っていませんでした。いろいろと情報交換をしていたり、コミュニティでもあったりと、ベンダーが入れない聖域があるのはすごいことです。私もCIOやCDOのいろいろなクラブに首を突っ込んで、同じような方にお会いすることが多いです。孤軍奮闘せず、ぜひそういうところに身を投じて、人脈づくりをすることをおすすめしたいですね。
平井:ありがとうございます。今日は楽しい時間を過ごせました。今回は全く打ち合わせ無しで、30分前に集まって世間話をしてから本番を迎えたのですが(笑)、本当にダイナミックなインタラクションがあったと思います。ありがとうございました!