【DevOps前編】今、原点に立ち返る。本当に心地よいOps(Dev)とは?
2021年5月12日に開催されたCTO meetup。今回はアジャイルコーチの藤原さんをファシリテーターに迎え、Chatworkの春日さん、エンペイの田野さんに「本当に心地良いOps(Dev)とは?」というテーマについてディスカッションしていただきました。
それぞれ企業フェーズが異なる2社のDevOpsには、どのような違いがあるのか。そして、二人のCTOはDevOpsの本質をどのように捉えているのか?具体的事例とともに、ユーザーに迅速かつ柔軟な価値提供をしていくためのヒントをお伝えします。
登壇者のご紹介
シリーズAのエンペイと、ミドルからメガベンチャーを目指すChatwork
アジャイルコーチ/テスト自動化コンサルティング 藤原 大 氏(以下、藤原):本日はよろしくお願いします。早速ですがエンペイの田野さんから自己紹介していただけますでしょうか。
株式会社エンペイ/取締役CTO 田野 晴彦 氏(以下、田野):株式会社エンペイの取締役CTO田野と申します。エンペイは創業から2年半ほどのスタートアップ企業で、僕とCEOが創業しました。2021年4月に資金調達を完了し、現在シリーズAラウンドのフェーズになっています。
田野:事業内容としては集金の業務をSaaS化した「enpay」を運営しています。保育園に利用いただくことが多く、従来であれば現金や口座振替で保護者の方から支払っていただいていた月謝を、LINEで通知、そのまま支払える仕組みになっています。ビジョンは社会の「お金の流れを円滑にし、幸せな社会を創造する」ことで、お金の流れがスムーズになった結果、空いた時間に生産的なことができるようになればいいなと考えています。また、お金の流れに関するインフラとなる責任も感じており、決済流通額の一定割合を子供の宅食や養子縁組事業に寄付するなど、助けが必要ところにお金が届く仕組みを広げていきたいと思っています。
藤原:ありがとうございます。続きましてChatworkの春日さんお願いします。
Chatwork株式会社/執行役員CTO兼プロダクト本部長 春日 重俊 氏(以下、春日):Chatwork株式会社のCTOを務めている春日と申します。Chatworkは東京と大阪、ベトナム、台湾に拠点を持っており、2000年に創業したChatworkの前身であるEC studio時代を含めると、そこそこの老舗企業となっています。
春日:従業員数は3月末時点で176名でしたが、4~5月にかけて人が増え、もうすぐ200名規模の組織になります。2019年9月に上場した当時は100名ほどだったので、コロナ禍という状況にありながらも成長を続けており、ミドルベンチャーからメガベンチャーを目指していくようなフェーズです。
僕が統括しているのはプロダクト本部という組織で、プロダクトマネージャーやエンジニア、デザイナーなど、プロダクトを開発する全ての職種を集約させています。現在は組織の変換期と考えており、組織をスケールさせるためにフロントエンドやSRE、サーバーサイドなどいわゆるエンジニアのスキル別で編成しているチームもあれば、GE(グロースエンジニアリング)や料金プランなど、ファンクション別のチームも作っています。
藤原:ありがとうございます。最後に僕の自己紹介も簡単にさせていただきます。僕はもともとJavaエンジニアで、楽天時代にアジャイルコーチやフロントエンドのエンジニアリングマネージャーを務めていました。その後メルカリでテスト自動化や次世代QAの立ち上げなどを経験し、現在は独立。スタートアップ企業の技術顧問やアジャイルコーチ、テスト自動化のお手伝いなどをさせていただいています。
サービスや開発をゼロから創るステージにおけるDevOps
非同期的開発から同期的開発にチェンジし開発スピードを速めたい
藤原:まず、「サービスや開発をゼロから作るステージにおけるDevOps」については田野さんに、「苦難を乗り越え上場し、組織規模も倍増したステージにおけるDevOps」については春日さんにお伺いしていこうと思います。
では田野さんからよろしくお願いします。エンペイはまさに0が1になるシリーズAラウンドというフェーズだということですが、改めて会社のステージについて詳しく教えていただけますか?
田野:当社は創業から2年半経ち、正社員数がようやく最近2桁になりました。エンジニアも最近までは僕1人で、副業や業務委託の方に手伝っていただいていました。先日資金調達を迎えて3名ほどのチームになったので、まさにここから密度の高いチームを作って加速させていこうとしています。
藤原:開発はどんな役割、流れで行っているのでしょうか?
田野:エンペイの開発は2年半から今までで3段階ほどに分かれています。最初は僕1人と開発会社がいて、プロトタイピングしたものを実際のお客様に使ってもらい、ひたすらMVPの検証を行うフェーズ。次に一定数顧客を獲得しPMFを目指していくフェーズに差し掛かり、僕を中心とした副業・業務委託のメンバー10名ほどが非同期に開発を進めました。そこからある程度のスピードで開発が可能になり、PMFも達したという壁を超えたのが、今の段階です。今後は本格的にスケールしていくタイミングなので、正社員採用のアクセルを踏み、開発スピードもさらに速めていこうとしています。
藤原:副業や業務委託の方を交えながら開発を進めていく上での注意点はありますか?
田野:普通の開発は大体10時~18時までの間に同期的コミュニケーションを取り、何かあればすぐに相談してプルリクレビューをするのが当たり前ですが、副業や業務委託の場合はそうではありません。うちに入っていただいている方は平均すると月40~50時間稼働されている方が多く、活動時間はバラバラです。副業の方であれば深夜や土日の空いた時間を使うケースもあるので、同期的な進め方は不可能です。そうなると最初から非同期での開発を念頭に置いたフローを設定する必要がありますね。
藤原:今は非同期から同期的開発手法に移行するタイミングなんですね。開発自体はスクラムですか?
田野:非同期でも同期でも、一貫してスクラムです。ただ、非同期でスクラムをやろうとするといろいろと難しい部分があったので、そこは最適化できるようにカスタマイズを加えていました。
Biz,Devともに成功も失敗も経験した「2周目」のメンバーが多く、新技術導入の障壁は低い
藤原:DevOpsにおいてはフローだけではなく技術面も大切だと思うのですが、現段階までどんなツールを使ってきたのでしょうか?
田野:創業からずっとサーバーサイドはRails、フロントエンドはVueです。全体的にRailsに寄せた構成になっていて、サーバーサイドエンジニアが開発しやすい環境になっています。インフラはAWS、監視系はNew Relicです。
環境についてはもともとプロダクションとステージングしかなかったのですが、プルリクのレビューごとに確認できるHerokuの環境を構築したほか、最近はBig Queryも導入しようとしています。
藤原:開発者がプルリクを作るたびに自動でHerokuでレビュー用の環境が立ち上がるということまでされているんですか?
田野:そうですね。
藤原:すごいですね。それなら開発が増えてもスケールしそうな印象があります。そこまでやろうと思ったきっかけはあるんですか?
田野:我々はスタートアップではありますが、事業においても開発においても、成功も失敗も一通りを経験している「2周目」という感じのメンバーが多いんです。
藤原:大人ですね(笑)。
田野:メンバーはみんな、開発で辛くなってしまった経験を踏んできているんですよね。「今回は備えておこう」というマインドがあるので、新しい技術を導入する障壁が低いですし、コミュニケーションも非常にスムーズです。ここは会社として大きなアドバンテージだと感じています。
急加速する事業の成長スピードに開発も併走するのが一番のチャレンジ
藤原:DevOpsという観点で、現在課題に感じていることは何かありますか?
田野:やはり副業、業務委託中心から同期的な正社員中心の開発スタイルに変える部分ですね。なかなか苦戦しています。
藤原:それは技術的にという意味ですか?
田野:チームフローの部分が大きいです。もともと非同期で開発しているときは上手くいっていたことが、同期的にフルで働くメンバーが入ったとたん、難しくなってきました。
藤原:エンペイさんはこれまで中長期的視点でプロダクトテクノロジーのロードマップをご用意されているそうですが、実際のフェーズとしてもそういったものがより必要になってきましたか?
田野:そうですね。ロードマップに関してはDevOpsに加えてプロダクトマネジメントの要素も絡みます。事業とプロダクトが同じ角度で成長をしていく分には問題ないのですが、多くの場合は乖離が起きます。すると、「事業的にこれがやりたい」と思っても、システム的に実現できないという事態が起きる。できない前提で事業計画を練り直すと、今度は事業的に上手くいかない。
我々はまだ規模が小さくメンバーも少ないため、事業の成長速度は抑えられており乖離の問題は起きていないのですが、ここからシリーズAを迎えて事業が急加速していきます。そのときプロダクトも同じ勢いでクイックに対応し続けるようにするのが、一番のチャレンジかもしれません。
藤原:では、現在DevOpsの観点から、意識して取り入れているプラクティスやツールはありますか?
田野:ペアプロやモブプロを取り入れ始めました。実はこれまで副業などの採用はリファラル100%だったので、スキルセットが合うことはもちろん、一緒に働いていて居心地が良いメンバーばかりだったんです。タスクを渡したら、それだけで完成度の高いアウトプットが出てくるような状態でした。
しかし今後はそれだけではなかなかスケールできません。チームとしてナレッジを共有し学んでいくためにも、ペアプロ・モブプロの工程は積極的に実施したいです。
藤原:スタートアップで加速が求められる中でも、そういった時間的な投資をしていく判断をされたわけですね。非常に大人なスタートアップで面白いと思いました。