高い改ざん検知性とスケーラビリティを備えた分散型台帳でデジタルデータの真正性を保証する――株式会社Scalar
分散型台帳ソフトウェアの研究開発及び提供を行っている株式会社Scalar。分散データベース技術とブロックチェーン技術を融合し、高い改ざん検知性だけでなく、スケーラビリティや強い一貫性等を備えた分散データベースプロダクトを手がけていらっしゃいます。
今回は株式会社Scalar代表取締役CEO兼CTOの山田浩之さんにインタビューを実施。現在のエンジニア体制やFLEXYから紹介したスタッフの働き方、今後の展望などをお伺いしました。
目次
FLEXYのご支援内容
FLEXYからご紹介した方 | SRE/DevOpsエンジニア |
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案件概略 | 分散型台帳ソフトウェアScalar DLTを支えるインフラ基盤の開発と整備 |
スキル要件 | – インフラに関する幅広い知識と経験 – TerraformおよびAnsible等のプロビジョニングツールやオーケストレーションツールに関する知識と経験 – DockerおよびKubernetesに関する知識と経験 |
期間 | 3か月更新で現在2か月目 |
稼働頻度 | 週5日 |
働き方 | 常駐 |
Scalar DLT: 高い改ざん検知性とスケーラビリティを備えた分散型台帳
――まずは、御社のプロダクトについて教えてください。
山田浩之さん(以下、山田):弊社の主力プロダクトはScalar DLTという名称の分散型台帳ソフトウェアです。平たく言えば新しい分散データベースです。
Scalar DLTは、最先端の分散データベースがもつ高いスケーラビリティや強い一貫性という性質だけでなく、高い改ざん検知性というブロックチェーン等が持つ耐改ざん性に似た性質を備えています。
Scalar DLTの大きな特徴は、それらの両方の性質を高いレベルで備えているところです。
――新しいデータベースの開発をされているんですね!今は何名くらいで開発をされていらっしゃるんですか?
山田:エンジニアは社員が3人、業務委託が5人です。そのうち常勤が4人、リモートワークを含むパートタイムが4人ですね。
――御社のプロダクトを思いついた背景を知りたいです。いつ頃から企画されていたんですか?
山田:私は博士課程の時代も含めると15年以上ずっとデータベースと分散システムの領域をやってきていて、5年ほど前にたまたまブロックチェーンの存在を知りました。
ブロックチェーンは、システムはまだ発展途上の印象をうけましたが、性質自体には面白い部分があると思いました。
特に、悪意を持ってデータを書き換えることができないという耐改ざん性という性質は、これまでデータベースや分散システムの分野では限定的にしか考えられてこなかったからです。
その後、ビットコインのようなトラストレスという文脈ではなく、ある程度トラストが存在する状況における耐改ざん性をもつデータベースという文脈でもう少し深掘りしてみると面白いかなと思うようになりました。今後デジタライゼーションやIoT化が進むとそのアプリケーションが広がりうると直感的に感じました。またスケーラビリティという性質と耐改ざん性という性質は実は本質的に両立が難しいのですが、色々と考えているうちにそこをうまく乗り越えられそうなアイデアが出てきたため、スタートアップのプロダクトとして作っていこうと思いました。それが約2年前くらいでしょうか。
FLEXYに業務委託を依頼した背景には、スタッフさんの人間力もあった
――FLEXYからは、K.Tさんをご紹介させていただきました。 どのような働き方で、どういった業務を担当されているか教えてください。
山田:K.TさんにはSREやDevOpsの担当エンジニアとして、週5、常駐で来てもらっています。現在は、弊社のプロダクトを支えるインフラ基盤を作る仕事をお任せしています。Scalar DLTは様々なコンポーネントから構成されていて、またスケーラビリティや可用性といった特性をもっていることから、クラウド等へのインストールや運用を人手でやると結構大変なのですが、そのような作業を自動化するソフトウェアやツールの開発をK.Tさんにお願いしています。そのようなツールは弊社内だけでなく、弊社のパートナー等も使っていく予定です。
――K.Tさんは経験豊富なエンジニアですが、スキルをどのように活かしていただいていますか。
山田:K.Tさんが入る前から弊社が作ってきたTerraformのモジュールがあるのですが、Terraform経験が少ないエンジニアがこれまでつくってきたため、Terraformらしくない構成やコードがあったりしました。K.TさんはTerraform経験が豊富でしたので、まずそこを洗練化してもらうところをやってもらいました。
――K.Tさんを紹介したFLEXYの野谷との出会いについてお聞かせください。
山田:具体的な経緯は忘れてしまいましたが、前職のときに何かのきっかけで出会ってその後何人かエンジニアを紹介いただいたのが始まりですね。
K.Tさんは8か月前に野谷さんからご紹介いただいたのですが、当時は事業とのタイミングが悪く一度お断りしました。その後、事業が進展しインフラ部分を強化していくタイミングになったため、再度私から野谷さんに連絡して「K.Tさんって今後空きそうですか?」と聞きました。以前断ってからも、野谷さんからもたまに「どうですか?」という連絡を諦めずに(笑)こまめにいただいていたので、自然と最初にお願いする形になりました。
――なるほど!ありがとうございます!今回K.Tさんをご紹介した際に、人選の必須要件などはありましたか?
山田:SREの経験者で、TerraformやAnsibleなどのツールの経験が豊富であることがまず第一の要件でした。また、今後Kubernetesを活用していく予定なので、Kubernetesの経験があるまたは経験をしたいという希望がある方で、謙虚で意気込みがある方、という感じで野谷さんにお願いしたかと思います。
――開発には他にもフリーランスのエンジニアさんも入っていますか?
山田:フリーの方は他に2名いますが、2人とも私の以前からの知人です。人材紹介を通して入った方はK.Tさんが初めてです。
主なターゲットはデジタルデータの証拠性(真正性)を保証する必要がある大企業など
――御社のプロダクトのターゲットはどのような所ですか。
山田:顧客のターゲット層としては基本的には大企業が多いと思います。例えば、保険や金融系の企業ですね。金融や保険の業界では、契約書等の証拠性が必要なものはすべて紙で残すという文化があると思います。昔からの慣習でそうしている部分と、紙で残した方が偽装がしづらく証拠性が高くなるからという理由でそうしている部分も少なからずあります。一方で、デジタライゼーションが進んできて、これまで紙でやってきた契約書等もデジタルデータでという流れが出始めました。しかし、単純にデジタルデータとして残すだけでは簡単に偽装やコピーができてしまうので、証拠性はかなり低くなってしまうという課題がありました。
一つは、そのような課題に対して、Scalar DLTを用いてその上で管理するデータの証拠性(真正性)を保証するというソリューションを展開しています。
また、最近は個人情報の管理も全般的に厳しくなっています。個人のデータを利用するにはその個人の同意が必要となったり、同意情報の記録には改ざんできない仕組みが必要というような法規制も始まりつつあります。そのような法規制に対応しなければいけない企業に対して、Scalar DLTを用いた個人情報の受け渡しに関する同意管理のソリューションを展開しています。
さらに、このような法規制により「情報銀行」という仕組みも広がってきていて、そこで使えるようなソリューションも開発中です。情報銀行では、先ほどの同意管理だけでなく、さらに個人のデータをどの第三者に提供するかという管理等も必要ですので、そこまでカバーされているものです。
――「情報銀行」自体はどこの誰が作るんでしょうか?
山田:「情報銀行」というものは、仕組みの話です。「情報銀行認定業者」と呼ばれる業者が、個人と企業の間に信託銀行のような形で入って、個人のデータの第三者提供等の管理をします。
Scalar DLTの3つの特徴
――それでは話を戻してまして、御社のプロダクトの三つの特徴についてお聞かせください。
山田:三つということでしたら、次の三つが挙げられます。
この三つの特性を高いレベルで備えているところが一番の特徴であり、他のプロダクトとの差別化ポイントです。分散型台帳という言葉を用いているためプライベート型のブロックチェーンと混同されることがありますが、応用している基礎技術が近いというだけで、方向性としては大きく異なるものです。
最先端の分散データベースに対して既存のタイムスタンプ技術や電子署名技術を応用し、かつ、独自の新しいビザンチン故障検知の仕組みを融合したもの、という方がより適切な表現になると思います。
難易度が高い分野にチャレンジできるところが特徴。業務は英語と日本語を半々ずつ用いて進める。
――エンジニアに求められるスキルはかなり高そうに感じますが。
山田:スキルが高い低いというは基準が難しいですが、分散トランザクションのレイヤから独自で作っているので、スキルに関しては幅の広さよりも、深さを優先的に求めていると思います。なぜか日本では弊社のような基盤寄りのソフトウェア製品を事業とする会社がほとんどないため、深い技術をもつソフトウェアエンジニアが相対的に少なく、採用は結構苦労しています。
――御社のようなプロダクトが日本だとレアになってしまうのは、何故だと思いますか。
山田:まず、このようなプロダクトやその仕組みを理解・評価できる人がとても少ないというのが理由の一つとしてあると思います。ですので、お客さまに導入してもらうこと自体が難しいですし、投資家からの資金が集めづらいです。また、そのようなプロダクトを作れるコアな技術者も少ないため、事業自体を継続的に進めていくことが難しいです。結果、そういうプロダクトを作る会社もあまり出てこないのかなと思っています。
――御社の開発の特徴をお聞かせください。
山田:基本的にはスクラムで開発で進めていますが、速さよりも品質を重視して開発を進めています。重要なデータを預かるプロダクトを作っていますから、どんな故障が起きてもデータが壊れたり消えたりしないようにする必要があります。製品が安定版としてリリースされる前には「起こり得ない」と思われるような故障のシミュレーションテストをかなりの時間をかけてやります。こんなことをやっている日本のスタートアップは私の知る限り無いですね。
――K.Tさんの面談では、どのようなことを確認しましたか。
山田:最初の面談は8か月くらい前ですが、比較的単純なものだったと思います。僕らがやってることを説明して、「こういうツール等を使ってこういうことをやろうと思ってます」という話をして、その方向性に対する興味などを確認しました。また、K.Tさんの今後やっていきたいことについても聞いたと思います。会社の方向性と従業員のキャリアプランが合っていることがモチベーションを保つ上で最も重要な要素の一つだと思っているためです。あと最後に、英語を使うことに対して抵抗はないかという質問をしたと思います。弊社は、グローバル展開を視野にいれていることと海外出身のエンジニアもいることから、技術文書はすべて英語で書いていて、会話も英語と日本語の両方で行う場合が多いためです。
――山田さんご自身は、英語はお好きだったんですか?
山田:比較的好きな方だったと思います。趣味でスケートボードをずっとやっていたのですが、昔のスケートビデオは全部字幕なしの英語だったので、何を言っているかを理解したいと思ったのが興味をもったきっかけだったと思います。今のIT系では英語が標準言語になってしまっているので、好きかどうかというよりは必須であると思っています。
――今後、御社のプロダクトをイベントや会議で発表するご予定は?
山田:現時点では特に予定はないですが、3ヶ月に一回くらいは国内外の何らかのイベントや会議で発表しているので、今年もそんな感じになると思います。また、新しい技術を作っているので、きちんと論文を書いて、アカデミアの国際会議でも発表しなければと思っています。
企画/編集:FLEXY編集部