【ヘルスケア×ICT】エンジニア視点で語る医療とテクノロジーの親和性とは?

イノベーションの源泉であるテクノロジーとレガシー業界/産業との結合による「新たな価値」をテーマに、さまざまなテーマに対し各分野の有識者をお招きして、ディスカッションを行うFLEXYが主催するイベント【FLEXY villege】。

2020年1回目の【FLEXY villege】は、1月24日に行われた「【FLEXY villege】ヘルスケア×ICT」。

古い仕組みからの変革が難しいと言われる医療業界で、新しいアイデアと取り組みでサービスを生み、幅広く展開する4社の企業様にご登壇いただきました。 今後さらなる拡大が見込まれる医療の世界で活躍をめざす、多くのエンジニアの方にお越しいただきました。

ヘルスケア×ICT ご登壇者

松本 均さん
株式会社Welby 執行役員 兼 プロダクト開発部 部長 松本 均さん
常富正史さん
リーズンホワイ株式会社 CTO  常富正史さん
谷口 直嗣さん
Holoeyes株式会社 Co-Founder 代表取締役 CEO/CTO 谷口 直嗣さん
戸本 裕太郎さん
(ファシリテーター)株式会社Linc’well 執行役員 最高技術責任者(CTO) 戸本 裕太郎さん

医療とテクノロジーのX-Tech(クロステック)、ご登壇者紹介

戸本 裕太郎 株式会社Linc’well 執行役員 最高技術責任者(CTO) 戸本 裕太郎さん 中部電力を経て株式会社Linc’well (リンクウェル) にjoin。中部電力ではCIS/ERPシステムの開発後,全社のICT戦略、AI・ブロックチェーンを使ったオープンイノベーションを推進。 2018年Linc’wellにエンジニアとしてjoin。現在はCTOとして、クリニックのWeb予約をはじめプライマリー・ケア体験に関わる各種プロダクトの開発を行う。2015年Ph.D.取得。 専門は知能情報工学/感性工学/可視化による情報分析の分野。

戸本裕太郎さん(以下、戸本):皆様はじめまして、Linc’wellの戸本です。僕たちは医療のベンチャーを行っていまして、「テクノロジーを通じて医療を一歩前へ」というミッションのもとに事業をやっております。現CEOの金子が東大病院の医師からマッキンゼーへ移り、そこでヘルスケアのプロジェクトをしていたメンバーと弊社を立ち上げました。 僕はTechのメンバーとして2018年にジョインし、現在は十数名ほどの会社となっております。 僕たちがやっていることは、医師の方と一緒にクリニックの現場に深く入り込んで、経営をサポートしたりとか、Techをドライバーにしたりなど「スマートクリニック」をプロデュースしています。 日本のクリニックは10兆円規模と言われていますが、利益率も高く市場としても魅力的です。ただ、エクスペリエンス面で改善の余地が多くあると感じています。たとえば「予約が取りにくい」「待ち時間が長い」「キャッシュレスへの対応が遅れている」など。 クリニックはおもに個人事業主の業界で、経営サイドは50歳以上のお医者様がメインです。患者さんも年齢層が近いので、中高年の方々で成り立っている業界といえます。新しいTechの導入でビジネスプロセスを改革しようとなると、オペレーション自体を変革することに抵抗があるなどで、なかなか改善が難しくもありますね。 そこで「自分たちが、業界としてめざしたいクリニックの姿を実際に提案すれば良いのでは」と考えて立ち上げたクリニックが「CLINIC FOR」です。CLINIC FORの良いところは「予約していれば、基本的には来院15分で帰れる」「平日夜や土日祝にも開院している」「キャッシュレス決済に対応」「オンライン診療も行っている」など。他、状況次第でお薬の宅配ができますし、スマホで検査結果の確認もできます。またCLINIC FORグループの院ならどこでもカルテの共有で再来院ができます。 1号院を田町に立ち上げましたが、1日の患者さんの来院数が200名と立ち上がりは速かったです。一般的なクリニックの新規開院の、3倍以上の数字です。また1年目の年間売り上げが3億円ほどにもなりました。現在はユニークユーザーが29,000人を超え、ユーザーの多くが20代~40代のビジネスパーソンです。その層のニーズにフィットしていて、クチコミなどでも高い評価をいただいているという状況です。 勿論患者さん側だけでなく、医師の方のニーズにも配慮しています。医師の方も「CLINIC FORのような病院を作りたいが経営に自信がない」「育児と診療を両立したい」「研究をしながら診療のスキルも維持したい」など、さまざまなご希望を持っていらっしゃる。CLINIC FORは、そのようなニーズの受け皿にもなっています。 またクリニックの業界は、看護師さんや医療事務の方のキャリア形成がまだ手薄といえます。そこでCLINIC FORでは、ビジネス研修やプロダクト研修を通じて新規ビジネスに対するリテラシー向上を図ることによるキャリアサポートも実施しています。 このような新しい形のクリニックを増やしていきたいと考えているのですが、ただ増やせば良いわけではありません。実際にデータを取り、日常からトリアージできる「プライマリー・ケア」の実践にもAIなどTechを活用していこうと弊社では考えています。

常富正史 リーズンホワイ株式会社 CTO 常富正史さん 立教大学経営学専攻大学院在籍時の2005年に起業。ITサービスであったがエンジニアがいなかったため、独学でプログラミングを習得し、自身でプロダクト開発を行う。その後、ワントゥーテンホールディングスに参加し、スマートフォンアプリ開発やソーシャルゲームの企画・開発など種々のプロジェクトに携わったのち、2017年5月にリーズンホワイ株式会社に入社。

常富正史さん(以下、常富):はじめまして、リーズンホワイ株式会社の常富と申します。弊社は設立が2011年7月7日の七夕で、病院のコンサルティング業出身の塩飽という者が代表を務めている会社です。また2018年には「J-startup」の支援をいただいております。 弊社の企業ミッションは「『医療×IT』で患者と専門医をつなぎ、全人類の寿命を1秒伸ばす」というものとなっております。ちなみに全世界の77億人の人の寿命が仮に1秒ずつ伸びると、延べ約245年寿命が長くなることになるそうです。 私は現在CTOを務めておりますがが、ジャーナリスト志望だった時期や、起業などの来歴を経てエンジニアになりました。 弊社のサービスは大きく分けて医療関係機関に向けたものとがん患者様向けの2事業があり、総勢25名ほどで事業を行っています。医療関係機関向けでは、製薬企業様向けに、病院攻略のためのターゲティングツール「WhytPlot」を提供しているほか、日本整形外科学会様の手術データレジストリ「JOANR」のシステム開発と運用をお手伝いさせていただいております。次にがん患者様向けビジネスですが、「Findme」は患者様と専門医をオンラインでつなぎ、レポート形式で専門医からセカンドオピニオンをもらえるサービスです。「Findme Gift」は、Findmeのセカンドオピニオンレポートの権利をご家族やご友人からがん患者様にプレゼントできるサービスとなっています。「Serendipity」は、がん患者様のこころのモヤモヤや悩みをカウンセリングでサポートし、闘病をメンタルの面からサポートするサービスです。 日本の年間死亡者数は約137万人といわれていますが、そのうち悪性新生物(がん)で亡くなる方は約28%、約38万人です。正しい治療と病気に向き合う意欲を養ってもらうことで、がん患者様の支援を行っていきたいと考えています。

松本 均 株式会社Welby 執行役員 兼 プロダクト開発部 部長 松本 均さん 2006年株式会社ベイカレントコンサルティングでシステム開発(SIer)担当し、2008年楽天株式会社でECシステムの運営、及び検索品質の改善を行う。2014年ヤフー株式会社でDMPの開発、及び全サービスのログ統一を担当し、ヤフオクにて事業戦略検討/施策効果測定、及び分析環境構築を担当。2017年株式会社ストライプデパートメントでCTO/執行役員としてECサービス及び新規サービスの立ち上げ、運営を経て2019年7月よりWelbyに参画。

松本 均さん(以下、松本):Welbyの松本と申します。自己紹介から致しますと、開発のSIerを務めてから楽天でECシステムを運営、その後「日本で最もデータを持っている会社へ行きたい」と思い、ヤフーに入社しました。ヤフーで出会った方が「ストライプデパートメント」というアパレルのEC事業を始めるということで、次はそこでCTOを務めました。社員が6名位でまだ何もないところから、ECサイトを新規に立ち上げ、リリースまでやりました。その後、1年間運営させていただき、倉庫、物流、システム、CSなど色々な経験をさせていただきました。その後、別の事業に携わりたくなり、自身の健康を意識する機会が増えたこともあって健康関連の事業を考えるようになりました。そこで現在は、Welbyでエンジニア部隊の責任者として組織の生産性向上やプロダクトの改善、データマネジメントの推進などを担当しています。 弊社についてご紹介しますと、「PHR(パーソナルヘルスレコード)」のリーディングカンパニーとして事業を行っております。会社設立は2011年で、2019年3月に上場いたしました。主要連携先は、製薬企業や医療機関などです。また、提携パートナーである日本郵政とは、郵便局を通じての地域住民にデジタルヘルスケア、サービスを普及させていくことを目的に、一部地域でパイロット展開をしています。また臨床研究の分野で大学と協力しているなど、さまざまなパートナーと連携しています。 企業のミッションは”Enpower the Patients”で、「テクノロジーとデータで患者中心医療の実現に貢献する」ということです。患者さんが必要な情報を必要なタイミングで得て、自分で判断・行動できることをめざしております。これを実現することで、患者さんが病院に行くタイミングを適切に判断でき、症状の悪化を防げるなどの状況につながればと考えています。 健康をテーマにしていますが、我々のターゲットはウェルネスやフィットネスというより、現在治療中の患者さんや、病気になるリスクの高い方(予備群)で、自己管理支援・治療支援によって、重症化を防ぐことをめざしています。 患者さんがご自身の血圧や血糖値などのデータを登録し、医師の方もそのデータを確認できるため問診がしやすくなり正確化・効率化を図れます。 弊社アプリのマイカルテにおいては、生活習慣病の患者さんをターゲットにしているのですが、データがあればご自身の状況を放置せず治療を続けるモチベーションにもつながります。医療機関や医師にとっても、患者さんが継続的に通院してくれることが期待できます。 「Welbyマイカルテ」という生活習慣病患者さんのためのアプリを作り、患者さんはそこにデータを登録できるようにしています。そのデータを全国各地の大学病院さんやクリニックさんなどと連携する形をとっております。 また「マイカルテ」の他に、多数の製薬企業さんと契約させていただきアプリを開発、運営しております。 また、マイカルテを多くの医師の方にご利用いただけるよう、医療機関と連携して、有用性を学会などで発表するなど、営業とプロダクト開発の両輪で事業を動かしているという状況です。 現在アプリのダウンロード数は約68万件で、全国の内科医が6万件ほどある中の1万件ほどの医療機関と繋がりをもっております。

マイカルテのアプリをインストールいただいている50代以上のユーザーさんは継続率が35%超とかなり高めです。弊社で仕事をしたいエンジニアの方からは「医療の知識がないと仕事ができないのでは?」とよくご質問いただきますが、各部門と連携して仕事を進められるので問題ありませんと回答しております。

谷口 直嗣 Holoeyes株式会社 Co-Founder 代表取締役 CEO/CTO 谷口 直嗣さん CGスタジオのR&D部門を経てフリーランスに、3Dプログラミングを軸にコンソールゲーム、インタラクティブ展示、スマートフォンアプリ、ロボットアプリケーション、VRアプリの企画開発を行う。 2016年10月にVR/MRを使った医療向けサービスを提供するHoloeyes株式会社を設立。 女子美術大学メディア表現領域にて非常勤講師としてゲームの企画開発の指導も行っている。

谷口 直嗣さん(以下、谷口):Holoeyesの谷口と申します。弊社はVRを使った医療向けのサービスを提供しております。2016年に設立し、現在は80の医療施設でサービスをご利用いただいています。また2020年3月には、薬機法のClass2の認証を取得する予定でおります。 私は元々ゲームの制作やロボットアプリの制作も行っていて、外科医の杉本と2人で創業いたしました。ちなみに杉本の専門領域は肝臓、胆嚢、膵臓です。 次に弊社の事業内容をご紹介します。たとえば肝臓の手術を行う際には、肝臓の内部にある血管の位置を把握することが大変重要で、そのために有効なVRを提供しています。血管の位置を立体的に把握することで構造が分かりやすくなりますし、VR空間ではコントローラーで簡単にハンドジェスチャーにより、3Dモデルをひっくり返して裏側を確認することなどもできます。実際に患者さんをひっくり返して確認することは難しいですからね。 脳の手術の際にも、Mixed Realityで神経や血管を3次元的に見ていくことができます。脳手術は顕微鏡で30倍に拡大をして行いますから、医師の方がどの場所を見ているか迷ってしまう事もあります。この時3次元的な位置確認がVRで行えると、非常に役に立つんです。 整形外科の例でも、たとえば首の骨を削って腫瘍を切除する手術の場合、どこまで削るかの判断が難しいんです。そのような時に、HoloLensを用いて骨を半透明に見せることで判断しやすくする。また傷つけられない重要な動脈は赤く表示するなどして、3Dホログラム上でも注意喚起できるようにしています。 今後5G通信が開始すれば、VRで遠隔地にいる医療関係者の方々がカンファレンスを行えるようにもなります。 我々は単にVRのアプリを作る作業だけではなく、データにもフォーカスしていますが、中でも医療の教育分野で3次元データの活用をすすめたいと考えています。医学生さんや看護学生さんは、現時点だと紙の本だけで勉強する機会がほとんどです。そこで教育現場でもVRが活用されればもっと理解度が深まると考えています。臨床で用いたデータが、教育など他の分野ともすぐに連携できる状況を作りたいと思っているんですね。ゆくゆくは、「医療版のGitHubやWikipedia」のようなサービスを3Dデータの活用によって実現したいです。

(ここで実際に3DVRを登壇者の方々に体験してもらう)

このような3次元VRを作るには本来エンジニアが必要なんですが、それを皆様にも簡単に作っていただけるようなサービスを提供しています。顧客の方は、外科手術を実施している医療機関さんが中心ですね。

3DVR

医療に新しい分野が参入する上での具体的なハードルとは

戸本:ありがとうございます。次からは、パネルディスカッションに移らせていただきます。医療とひとくくりに言っても、いろいろなアプローチがありますね。今日ご参加されている皆様は、実際に医療に関わられている方と今後医療の世界をめざしたい方、それぞれ半々ほどとうかがっております。登壇者の皆様も、医療とTechをリンクさせた仕事をするにあたって、ギャップや苦労を感じた経験があるかと思いますが、まずはそこをお聞きしたいと思います。

マーケティング上の問題

戸本:常富さんの場合は、たとえば「がん」という疾患を取り扱うにあたって法的なハードルがあるなど、ビジネスとして成立させるまでの過程にさまざまな試行錯誤があったかと思われます。そのあたりをお聞かせいただければ。

常富:がん患者様向けのサービスのお話をしますと、マーケティング面で配慮を忘れないようにしなければならないと感じます。「スマート脳ドック」というサービスがありまして、脳ドック健診には本来2~3時間を要しますが、あらゆる効率化を実現したスマート脳ドックでは30分ほどで済むというものです。それを行っている方とお話をした際に、脳ドックの場合は「いま脳ドック受けてます」とSNSなどで投稿・拡散してくださる方も多いとうかがいました。しかし、がん患者さんの立場を考えますと、SNSで拡散という気分ではないと思いますし、安易な表現で不快な思いを与えてしまわないよう配慮しなければならないと思っております。

営業活動の大変さ

戸本:松本さんはいかがでしょうか?

松本:営業視点で難しかったことからお話しします。弊社のサービスは、医師の方のご紹介によるユーザーさんの継続率が最も高いんですが、そのケースを増やすとなれば医師の方のご利用が前提となります。その医師の方々にご利用いただくまでの営業活動が、なかなか大変でした。 Tech視点で行くと、疾患の内容や血圧などユーザーさんの機微情報を扱ううえでのセキュリティ面が最も苦労したかなと思っています。パスワードだけでは勿論いけませんから、2段階認証や利用可能ユーザーの制限など、開発環境のセキュリティも最も厳格なレベルで作業をしていたと思います。その結果、本番環境に入れるエンジニアがごく少数になってしまうことがハードルになりましたね。何か起こった時、すぐ駆け付けられるエンジニアが非常に限定的になってしまうとか。人材の確保がかなり重要と感じており、弊社ではエンジニアを大々的に募集しております。ぜひ、お越しいただければと思います。

異業種からのアプローチ

戸本:谷口さんの場合は先程のデモを拝見した時点で難しそうだなと感じましたが、いかがでしょうか。

谷口:個人的には、以前はゲーム開発の業界にいましたから医療の世界に入るとはまず思っていなかったんですね。医師の方との共通言語を持っていないんです。弊社の場合は幸い共同創業者が医師でしたから、彼の話の中で知らない単語が出てきたら調べることを繰り返しました。たとえば、手術の術式をうかがって後から検索すると、動画などもインターネットでかなり見つかるんですね。そうやって知識を得て、徐々にお話ができるようになっていきました。 あとはやはり、ヘルスケア業界はVRの世界と比較すると遅い部分がある。他のジャンルでVRを活用している業界は今どんどん伸びていますが、弊社はその分だけ少しずつ伸ばしていかないといけないかな、と感じることでしょうか。また営業のスタイルも、紙をおもに使っているなど旧式な部分が多いですから、その辺りもですね。

人材採用や資金調達など、リソースの集め方

戸本:さて今回ご登壇のお三方は、CEOやCTOなどビジネスの重鎮を務めていらっしゃいます。次は、皆さんが人やモノやお金などのリソースを集めて、会社を維持されている秘訣などをお聞かせいただければと思います。

採用活動では社会貢献に対する意識の高い志望者が多いがビジネスに強い方も歓迎

常富:僕はエンジニアの面接や採用活動に立ち会う機会が多いのですが、弊社に来られる応募者にはご親族や知人の方ががんを経験されたという方が多いんです。社会貢献に対する意識の高い方が多いという印象ですね。今後はそういう方々だけではなく、ビジネス的に医療の世界に注目されているという方もどんどん門を叩いてほしいと考えていますね。

松本:私もエンジニアの採用を担当していますが、現代は高齢化などで医師の負担増が問題化しています。そこで弊社でちょうど取り扱っているPHRについて、国策として整備を進めようという流れになっているんです。そのため、やはり弊社でも世の中に貢献したいという意識で入ってくださる方が多い。あとはやはり、ご自身の健康について健診結果などで深く関心を持たれた方や、ご家族が疾患を経験された方などが多いですね。今後は社会貢献という要素に加え、つねに新しい技術に触れられる開発環境などもアピールして人を集めたいと考えています。

資金調達面ではデジタルヘルスケアの注目度が高く比較的苦労は少ない?

戸本:お二人が「人」のお話中心でしたから、谷口さんには「お金」の面でお話を伺えたらうれしいです。

谷口:私はCEOですから資金調達なども務めておりまして、弊社はヘルスケア業界ということで、有り難いことにベンチャーキャピタル(VC)さんの受けも非常に良いです。VCさんにも、投資を通じて社会貢献したいという意識をお持ちの方が多いですから、VRをヘルスケアに活用しますというと非常に喜んでくださいます。デジタルヘルスケアは今後さらに伸びるといわれていますから、資金調達という面ではかなり恵まれていると思いますね。

「お堅い」医療の世界で現代のトレンドをサービスに生かす工夫とは

医療に関わらず既存産業のIT化は作業が多くなりがちだが難しさは想定内

戸本:次に、技術をサービスや現代のトレンドに上手にかけ合わせることで、うまく市場に出していくためにどのような工夫をされてきたかお伺いしたいのですが。

常富:弊社でやっていることは、基本的にWEBサービスで病気で困っている方と医療関係者をつなぎ、医療における情報格差をなくすことです。この意味では他の分野のITサービスと比較した場合においてヘルステック企業だから最先端の技術が駆使されている、というわけではないですが、

いわば「長年ITではなかった世界にITを入れていく作業」ですから、病院や医師のおかれた環境や生活を観察しヒアリングし、どのような設計にしていくかを決めていくことに苦労もあったりしますが、難しいのは想定内というところでしょうか。

サービスを継続してもらうため「データによるユーザーへの介入」に注力

松本:弊社のアプリは生活習慣病をはじめ、多種多様な患者に対するアプリを製薬企業様や医療機器メーカー様、医療関係者の皆様と共同開発してサービスを提供しています。、アプリを立ち上げてユーザーを増やすというところまではできていますが、そこで得たデータをこの先どうビジネス化していくかというフェーズに今はあるという状況です。 たとえば「血圧上昇にはこう対策しましょう」とか、「食生活の乱れはこう改善しましょう」など、データを使ってユーザーに介入するためにどんな技術が必要か、など。AIや機械学習、ディープラーニングなどは「ユーザーのパーソナライズ」という観点で活かせます。 ユーザーの機微情報を扱っているという点でいうと、データをセキュアに保つためにブロックチェーン技術を活用するとか、ニーズに合わせたテクノロジー開発は行うようにしています。

企業単位でカバーできない部分を代理店のネットワークで補完し全国進出を図る

谷口:我々はVRのツールを提供していますので、医師の方ともディスカッションをしてそれぞれの方々のアイデアをうかがいながらツールを開発していくというスタイルを取っています。その上で「こんな使い方をしています」「こう使うと便利ですよ」という情報をユーザーに拡げていくとか。 病院は全国各地に数多くありますし、弊社だけではカバーしきれない部分もある。そこで代理店のネットワークを作って、代理店が営業に出向くという形も取っています。

会場からの質疑応答

3Dホログラムデータを取り扱う医療サービスではクラウドも積極的に活用

戸本:次は質疑応答に入りたいと思います。既に多くのご質問をいただいていますが、まず「クラウドは使用していますか? 使っているとすればAzureなどでしょうか?」という質問をいただいています。こちらは谷口さんにお答えいただければ。

谷口:そうですね、弊社ではAzureです。Microsoftさんと懇意にしておりまして、Microsoftさんの製品は他にも多く使っています。病院で弊社のサービスを使うために回線を引いてもらうなどしています。最近はシーメンスさんの「teamplay(チームプレイ)」というクラウドサービスの、VPNの回線で弊社のサービスを使うなどですね。

個人情報や診療情報……医療の世界ではデータ管理もセキュリティ最重要視

戸本:「個人情報の管理や省庁からのガイドラインに関すること」についても質問をいただいています。

常富:医療情報は、あらゆる個人情報の中でも厳重な管理が必要とされています。 その個人情報を扱ううえでは、時に個人が特定できないようハッシュにした値をデータベースに保存することもあります。

松本:弊社もPHR事業を行っていますから、患者さんの個人情報を取り扱います。どう扱っているかというと、弊社では領域を分けていて、データベースを「ユーザーIDなどの生データ」と「分析とか営業が使うデータベース」、そしてそれをレコード化したデータの3つに区分しています。それらに情報制限をかけ、生データを扱えるのは社内でも数名ほど、加工データであればハッシュ化したものを取り扱える状態にするなどしています。全て隠すとビジネスに使えませんので、データを内容ごとに区分して取り扱いの範囲を決めるようにしています。

谷口:弊社の場合は、おもに3次元データを蓄積しています。元になるのは医療画像のDICOM(ダイコム)というフォーマットなのですが、基本的には数値のデータだけを保存しているという感じです。個人情報に関するデータは、社内のデータの中にはないですね。むしろ症例に対する外科的なアプローチなど、外科的・解剖的なところを保存しているため、症例などで個人に結びつくようなデータは基本的にはありません。

医療業界でエンジニアが活かせる強みや「ここに強くなれる!」ポイント

戸本:次は趣を変えて、「医療業界で活かせるエンジニアの特殊な強みはあるのか」という質問を取りあげましょう。

松本:業界が異なっても、エンジニアのモノづくり自体は変わりません。ただ、医療業界で強みを生かせる要素といえばセキュリティ面かなと思っています。セキュリティを意識しなければ、システムの維持ができないですから。医療業界のデータの多くは機微情報なので、医療関係でエンジニアをやっていれば、その辺りの知識が身について強みとできるんじゃないかなと思います。

戸本:弊社でも実際に仕事をしていて思うのが、医療関係は失敗があると人の健康に何かしらの影響を及ぼしてしまう可能性があるサービスでもあります。弊社は手術などに関わるサービスは行っていませんが、「このサービスを落とすと大変」と思うことで、勉強への意欲やセキュアに対する意識が生まれますね。そこから実際のアクションとして、省庁のガイドラインへの対応や、データの構造改善などにつながっていく。そういうことを通じて、非常に注意深く設計ができるようになるのではないかと思っています。それも身につく強みの一つではないかな、と。

常富:強みというとちょっと難しいのですが、「医療が向いているエンジニア」という観点でお話しすると、技術だけではなく幅広い視点で好奇心を持っている人がこの業界に向いているのではと思っています。谷口さんのお話のように、元々違う業界でやってきて突然異業種に入っても、分からない専門用語をどんどん調べたり吸収したりできる好奇心を備えている方が合っていると思います。

いわゆる「レガシーな業界」に新風を吹き込んでさらに成長するための戦略とは

戸本:次は「さまざまな古い慣習が残る業界かと思いますが、グロースのためにどのような工夫をしていますか」という質問ですね。

谷口:ちょうど先日、東北大学さんの放射線科を訪問したのですが、わりとカジュアルな格好で出向いたんですね。その際にはフィリップス社の方も同行されましたが「ネクタイ要りますかね? 谷口さんがノーネクタイなんで大丈夫でしょうか」みたいな話をしたりしつつ。 むしろ「古いしきたりには縛られていない、新しい世界から来ました」的なアプローチをしている感じです。古いと言われる業界の方々も「変わるきっかけが欲しい」と思っているもので、あえて自分たちは「新しい世界を作りませんか」というメッセージを送ろうと。「やっていることは新しいけれど、旧来の考えも理解しています」というスタンスですね。

松本:愛媛ケーブルテレビさんと連携させていただき、地域住民の健康基盤にPHRを置いて、テレビで普及を図る取り組みをしました。ケーブルテレビなどと連携してサービスを拡げる活動は、マーケチャネルが限定されている割には面白みがあったなあと思っています。

国や行政と円滑にコミュニケーションを図るには

戸本:最後にもう1問「ロビー活動について」は、いかがでしょうか。

谷口:弊社は薬機法の認証を取得プロセスを進めていますが、その過程のお話をします。認証取得にあたり薬事コンサルの方が入られるんですが、薬事には強くてもITには弱いという方が多いんです。データベースやインターネットまでは理解できても、VRとかAIになると分かる人がいない。そこで弊社は同業他社内で担当をしていた方に声をかけて、その方に副業として弊社も担当していただきました。 弊社のようなデジタルベースの業界で、レギュラトリーを熟知していて仕事にできる人は非常に希少です。今後はそういった人材を育てる取り組みも行いたいと考えています。それに関するイベントを昨年開催しましたが、今年以降も継続開催する予定でおります。この流れがうまくいけば、プロダクトの開発から販売までの時間も短縮できるんじゃないかなと思っています。

戸本:ありがとうございました。

ご登壇者、及び、ご来場いただいたみなさま、有難うございました!

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