【前編】CIOの役割とは?DX推進と情報システム部門が起こすべき変革

2021年5月19日に開催されたCTOmeetupのテーマは、「DX推進におけるCIOの役割」について。

楽天グループ、中外製薬、日清食品グループなど名だたる企業でCIO、デジタル・IT統括部門長として活躍されてきた3名の方々に登壇いただき、DX(デジタルトランスフォーメーション)について語り合っていただきました。

「攻め」の情報システム部になるためには、どのような変革が必要なのか。さらにエンジニア組織内製化の重要性やベンダーとの付き合い方など、気になるトピックが満載です。

経営のDXと情報システム部門の役割とは?

「経営課題のシステム化」から「事業理解に基づいたゲームチェンジ」へ

CIOイベント

楽天グループ株式会社/副社長執行役員 グループエクゼクティブヴァイスプレジデントCIO & CISO 平井 康文 氏(以下、平井):本日は80名ほどの方に参加いただいていまして、ありがとうございます。早速本題に入りたいと思いますが、最初のテーマは「経営のDXと情報システム部門の役割」です。

平井 康文
楽天グループ株式会社/副社長執行役員 グループエクゼクティブヴァイスプレジデントCIO & CISO 平井 康文 氏

1983年に日本IBM株式会社に入社。 米国IBMヴァイスプレジデント、マイクロソフト株式会社執行役専務、シスコシステムズ合同会社代表執行役員社長などを経て、 2015年2月楽天(現楽天グループ)に入社。 現職にて、グループ全体のITサービス戦略および情報セキュリティガバナンスを担当。

平井:CIOのミッション、またはCIOが統括する情報システム部門に求められる機能とは何なのか。また、企業としてDXをドライブさせていくときに、CIOファンクションはどのように経営とコミュニケーションをしていくのか。

このあたりを皆さんの経験を踏まえてお話していきたいと思います。まずは喜多羅さんからお願いします。

喜多羅株式会社/Chief Evangelist 喜多羅 滋夫 氏(以下、喜多羅):私は今年の春に日清を卒業しまして、現在はラックのIT戦略アドバイザーやダイドーグループHDのIT統括責任者などをしています。それ以外の企業ともいろいろとご縁があり、意見交換をする機会が非常に増えました。

各社のIT部門あるいは情報システム部門の位置付けは本当に千差万別です。私自身はずっとユーザー企業にいたわけですが、その中でも情報システム部門の立ち位置はタイミングによって変わってきました。

喜多羅 滋夫 氏
喜多羅株式会社/Chief Evangelist 喜多羅 滋夫 氏(元日清食品グループCIO)

P&G、フィリップモリス、日清食品において、システムのグローバル化とITを活用した働き方改革に携わる。 2018年経済産業大臣賞、2020年DX銘柄選定。 2021年4月より、喜多羅株式会社Chief Evangelistとして、ITとイノベーションによる事業変革の支援に取り組む。

喜多羅:例えば私が仕事をスタートした80~90年代は、ディシジョンサポートシステムによって、経営をどうやってサポートしていくのかという話がありましたが、なかなか上手く機能しませんでした。その後はいわゆるERPブームが到来し、会社情報を全てERPの中にまとめて、一気通貫で見ていこうという動きがありました。

当時は日本にCIOという言葉はなく、ロールも定義されてなかったような状態です。2000年に入ってから初めて、グローバルに情報統括をしていきながら経営にインパクトを与えようということで、CIOというポジションが出てきたのかなと思います。

私が日清食品のCIOになった2013年当時、声高に叫ばれていたのが「情シス上がりの人間は事業のことがわかっていない」ということです。システム導入などの実績はあっても、そのシステムを入れることで事業インパクトにどう影響を与えるのかがわかっていないだろう、という議論ですね。この頃他社のCIOと交流をしていてわかったのは、CIOの構成のうち3分の1程度はいわゆるシステム部門出身だということです。残りの3分の1は財務系。残りは経営陣の中でITに詳しそうな人が、事業とITを橋渡しするためにCIOになるといったパターンでした。当時の経営と情シスの関係性というものは、「経営課題をシステム化する」という点にあったので、そのためにはやはり事業がわかるCIOでなければ……という部分が強かったのかなと思います。

CIOの役割

喜多羅:ところが状況は変わり、ここ5年ほどでいわゆるテクノロジードリブンで動く事例が非常に増えてきました。顔認証によるチケッティングシステムを導入したり、Amazon Goのようにレジを通らなくても会計できるようにしたりといったことが起こっていく。アリババグループが運営している店舗では店内の購買のみならず、半径2km以内の場所なら30分以内にデリバリーするというスピード感の話にまでなっています。

これまでも「スーパーの購買経験を楽にしよう」という経営課題は存在していましたが、ここに対してテクノロジーがそろっていないと、イノベーションが起こらなくなっています。イノベーションにタッチできるのはやはりITに関連する部門だというのが、私が現場にいて感じていた肌感覚です。

これらを踏まえて、私がCIOあるいは情報システム部門の果たすべき役割として考えているのが、経営課題とイノベーションを両輪として持ちながら、強固な業務理解に基づいて事業にイノベーションを当てていくということです。競争関係や企業価値に対するゲームチェンジャーとしての役割ですね。

CIOの役割

喜多羅:言われたことを受け身で実現するのではなく、横で起こっていることやイノベーションの種を、いかに自社の事業課題に当てはめて翻訳しながら、成果として上積みさせていくか。こういうことを考えていくべきだと考えています。

平井:ありがとうございます。そういう意味では、これから求められるCIO像というものも変わってきそうな気がしますね。

DXを全社ごと化するために4つの要素を決めて循環させていった

平井:では志済さんからも同じテーマでお話しいただけますでしょうか?

中外製薬株式会社/執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子 氏(以下、志済):私からはこの1年、中外製薬でどのようにDXを推進してきたのかをお話したいと思います。

志済 聡子
中外製薬株式会社/執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子 氏

1986年 日本アイ・ビー・エム株式会社入社。執行役員として公共・官公庁事業、セキュリティー事業本部長等を歴任。 2019年中外製薬株式会社に入社し執行役員デジタル・IT統轄部門長として、社内IT全般ならびにDXの推進を担当。内閣サイバーセキュリティ戦略本部 専門調査会委員、Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討委員

志済:まず経営者から「DXをやって欲しい」と言われても、一体どこをゴールにして何をやるのか非常に不明確なケースがありますが、私は「DXを全社で回すにはどうしたらいいか」と考えながらやってきました。そのとき重要なのが以下の4つです。

デジタルトランスフォーメーション

志済:まずはDXを重視してやるという、トップのリーダーシップがないとはじまりません。次に全社で何をやるのか、明確なビジョンと戦略が必要です。そして、それを回していくための推進体制の確立。さらに人財育成、獲得と組織風土改革。こういったものをぐるぐると回していくことで、初めて全社ごとになるのではないでしょうか。

具体的な推進体制については、このような形で実施しました。

中外製薬DX推進体制

志済:当社は会長と社長に「デジタルをやるぞ」という明確な強い意志がありました。最近掲げた新しい成長戦略の中にも、キードライバーとしてDXが明確に位置づけられています。また、お金を預かるCFOの全面的な理解も、私を非常に後押ししてくれました。

全社組織としては、研究開発や臨床開発、製造、営業といったバリューチェーンの本部長たちによるデジタル戦略推進委員会を立ち上げ、月に1回予算承認や案件の共有など、さまざまなディシジョンメイキングをしています。

私はデジタル・IT統括部門長という立場です。その下が2019年10月に新しくできたデジタル戦略推進部という、いわゆるDXを回していく組織です。ビジネス部門から若手~中堅が集まっています。その右側にあるのがITソリューション部。旧情シスでです。

これら2つの部門が私の直下にあるということが、DXを回していく上ではとても重要だったと思っています。というのも、デジタル戦略推進本部はどんどん新しいアイディアを出してデジタル化を進めるというミッションを持っているわけですが、実際にプロジェクトが起こって実装の段階になると、ITソリューション部に落ちてくるからです。ITソリューション部は通常のシステムのバックログを抱えているので、「新規プロジェクトは引き受けたくない」という発想があるんですよね。このため、デジタル戦略推進部とITソリューション部が別のラインに位置していたら、なかなかDXが進まなかったと思います。どちらも私が管轄することで「DXはITソリューション部無しにはできない」と伝えられますし、実際、一番トランスフォーメーションが要求されるのはITソリューションの組織だという認識です。

さて、では実際DXで何をやっているのかというと、非常に細かいですが以下の通りです。

中外製薬DX推進体制

志済:一つはデジタルを活用した革新的な新薬創出です。創薬に関わるさまざまな課題をクリアするために、AIやリアルワールドデータ(RWD)、バイタルを可視化するためのデジタルバイオマーカーなどを活用しようとしています。

バリューチェーンの効率化に関しては、知見のデジタル化や顧客インターフェースの改革、あとは当然バックオフィスのRPAなどですね。それらを支えるための人材育成やアイディエーション、デジタルIT基盤の構築機能を持つデジタルイノベーションラボもあります。

これらの要素をぐるぐると回しながらデータを創出・活用し、インサイトに変えていくのが中外製薬のデジタルです。

CIOに求められるのはビジネスを主語にした技術変革のスキル

平井:喜多羅さんのお話にあった「技術出身者だけでは駄目だ」という点について、もう少し詳しく教えていただけますか?

喜多羅:日本企業の場合は、長らく同じ企業に所属し、下から粛々と上がってきたビジネス出身者が非常に多いと思うんですよね。その中ではどうしてもインクリメンタルな改善になりがちです。

日清の場合は、役員のうち半分はキャリア採用で、どの部門も外部人材を入れていました。これはやはり、環境が変わっていく中では事業を多角的に理解していく必要があるということ、既存のアプローチではなかなかブレイクスルーが生まれてこないということから、経営に対する刺激として入れていたのではないかなと思います。

平井:私が楽天に入社した当時、CIOは情報システムだけを担当する役職でした。それがあるとき、代表の三木谷から「開発部隊を全部見てくれ」と頼まれて、「いや、僕はプログラム書けないですよ」と言ったんです。しかし、彼が開発チームをまとめるリーダーとしてのCIOに求めるスキルは、「ビジネスで語ること」でした。どうしてもエンジニアは技術を主語にして語りたがるのですが、そうではなくあくまで技術はイネーブラー(支え手)なのだと。主語は事業やビジネス、社会、生活であり、それを技術でどう変えていくのかということだと言われたんです。

その点で言うと、私や志済さんのように元ITベンダーの役員で顧客と丁々発止できるような人間が、事業会社のCIOを務めるというキャリアパスは、今後もっと増えてくるのかもしれません。

志済:当社にもITをわかっている役員はいませんでした。ビジネス部門の権限が非常に強く、各本部にはそれぞれプライドもあった。そういうところで私のような門外漢がどう渡り合うべきなのかというと、やはり自分のITの目利き力が武器になります。IT部門出身のプロパーが役員を務めるのはなかなか難しい中では、やはり外から来て刺激を与え、自分の仕事をきっちりこなすというスタンスが大事なのかなと思います。

ビジネスとテクノロジーのアーキテクチャ同士の融合によってDXが実現する

平井:以下のスライドは、DXの本質として私が語りたかったことです。先ほど喜多羅さんがおっしゃったように、開発部隊がテクノロジーを主語にして語ってしまうのは大きな間違いだと言えます。本来は、新しいビジネスモデルとテクノロジーのアーキテクチャ同士を合体させたときに初めてデジタルトランスフォーメーションが生まれてくるはずなんです。

DX

平井:DXは最近の流行語になっていますが、僕が一番印象に残っているDXは、1980年代にユナイテッド航空のアポロとアメリカン航空のセーバーです。全てのエアラインの予約を1社が代行するという戦略です。本来であれば、自社のシステムで他社の予約を取らせるというのは自殺行為です。しかし、アメリカン航空には「絶対にセーバーのシステムが勝つ」という自信がありました。志済さん、この話IBM時代に聞きませんでしたか?

志済:聞きましたね。

喜多羅:私は航空会社に行きたかった理由がそれなので非常に懐かしいです(笑)。

平井:答えはシンプルで、予約時にアルファベット順でAAが最初に出るからです。素早く予約をしてチケットを発券できるなら、旅行代理店はどこでいい。これは逆転の発想ですよね。現在DXという単語がちやほやされている一方で、1980年代にはすでにデジタルと知恵の融合が起きている。こういうことを我々はもう一度学び直さなければいけないと思います。

図に書いたように、方程式の答えを大きくするなら分母を小さくするか、分子を大きくするしかありません。分母を小さくするというのが、今までのERPやCRMなど、サプライチェーンの基幹システムでした。一方DXは分子を最大化させ、新しい事業を創造するチャンスなのだと捉えられます。そのときに重要なのがパーソナライゼーションです。 この話は各所でしていますが、日本はパーソナライゼーションにおいてGAFAをも凌ぐ日本的な文化要素を持っています。それはマイ箸です。アメリカはナイフもフォークもスプーンも家族共有ですが、日本にはマイ箸があります。生まれ育った環境からして、パーソナライゼーションに長けているわけです。

技術は簡単に真似できますから、そういった技術の上に日本独自の行動様式や美学を隠し味のようにまぶせば、絶対に世界で負けないDXが実現できるのではと思っています。

CIO イベント

質疑応答

CIOの一番のミッションはヒト・モノ・カネの意思決定者をグリップすること

質問者:CIOの取り組みの中で、自分にとって最も重要なミッションを選ぶとしたらどんなものですか?


喜多羅:一言で言うと、社長とどうやって握るかですね。言うのは簡単ですがやるのは難しい。社長には本当にたくさんのアジェンダがあって、別にDXを考えることだけが仕事ではありません。商品の競争力を上げる、開発する、コストを下げる、顧客満足度を上げるといった多くのアジェンダがある中で、ITのことを考える時間というのはほんの数%しか無いと思うんです。その中で事業インパクトがある部分について、ピンポイントでコミュニケーションして合意を取るというのは、本当にすごく大事だなと思います。

というのも、DXを進める際には、大体今やっていることを一度否定しなければいけないからです。すると例えば、「紙だと出社しないと判子が押せないからペーパーレスにしよう」という提案に対して「やっぱり紙じゃないと」と言う人が出てきます。対立が起きたときに一番の後押しになるのは、最終意思決定者の一言です。だからこそ社長やCOOの時間や関心を握って自分のアジェンダを入れ込むのが、大事な仕事だと思います。

平井:志済さんはどうですか?

志済:私もまさにそうだと思いますね。ヒト・モノ・カネを集めるには、社長に必要性をわかっていただくのが一番です。先ほど紹介したような中外のデジタル戦略推進体制を作るときも、誰が部長をやるのかを全部社長が決めました。初年度で投資予算が無い中で「やれ」と言うのも、やはり社長です。ヒト・モノ・カネを押さえている人をグリップできれば、いろいろな議論が出たりアンチがいたりしても、最終的には貫けるというのが一番大きいと思います。


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FLEXY編集部
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