データベーススペシャリスト試験とは?難易度・合格率や勉強方法を解説
データベーススペシャリスト試験は情報処理技術者試験の区分のひとつで、特に難易度の高い試験に分類されています。合格に向けて入念な準備が必要になるため、試験の概要を抑えたうえで計画的に対策を進めることが大切です。本記事では、データベーススペシャリスト試験の概要や合格するメリット、効果的な勉強方法について解説します。
目次
データベーススペシャリスト試験とは
データベーススペシャリスト試験は、経済産業省所管の独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」が実施する情報処理技術者試験の一種です。2024年の時点で、情報処理技術者試験には計12の区分があり、そのうちのひとつに本試験が位置づけられています。
本試験の目的は、データベースに関する高度な専門知識・スキルの証明です。高品質なデータベースの企画や要件定義、開発・運用・保守などを実現するため、専門知識と実践的な能力が求められます。また、国の政策実施機関が実施する国家試験であることから、IT業界内でも特に高い認知度と信頼度の資格があるのも本試験の特徴です。
データベーススペシャリスト試験の対象者
試験の対象者は、確立した専門分野をもつ高度なIT人材です。中でも、データベース管理者やインフラ系エンジニアのように、情報システムの企画や要件定義の業務で中心的な役割を果たす方が対象とされています。
なお、情報処理技術者試験に受験資格は設けられていません。実務経験や他の試験の合格状況にかかわらず受験可能です。2024年の時点で、試験は年1回、秋季(10月頃)のスケジュールで実施されています。
データベーススペシャリスト試験の試験内容
試験内容は以下のとおりです。
- 午前Ⅰ・Ⅱ:多肢選択式(四肢択一)
- 午後Ⅰ:記述式
- 午後Ⅱ:記述式
試験は、午前Ⅰ・Ⅱ、午後Ⅰ・Ⅱのセクションに分かれており、それぞれ多肢選択式・記述式の試験が実施されます。各試験の内容を詳しく解説していきます。
午前Ⅰ・Ⅱ:多肢選択式(四肢択一)
午前Ⅰ試験の概要は以下のとおりです。
- 試験時間:50分(9:30~10:20)
- 出題形式:多肢選択式(四肢択一)
- 出題数:30問
- 解答数:30問
午前Ⅱ試験の概要は以下のとおりです。
- 試験時間:40分(10:50~11:30)
- 出題形式:多肢選択式(四肢択一)
- 出題数:25問
- 解答数:25問
午前Ⅰ・Ⅱ試験では、専門知識を問われます。いずれも4つの選択肢の中から解答を選ぶ多肢選択式です。午前Ⅰ試験は、応用情報技術者試験の午前問題から一部を抽出して出題する仕組みです。テクノロジ系やマネジメント系、ストラテジ系の幅広い分野から出題されます。午前Ⅱ試験の出題範囲は、コンピュータ構成要素やデータベース、セキュリティなどの6分野から出題されます。
なお、以下の条件のいずれかを満たしている場合、申請により2年間午前Ⅰ試験が免除され、午前Ⅱ試験から受けることが可能です。
- 応用情報技術者試験(AP)に合格
- 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験のいずれかに合格
- 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績をとる
出典:午前Ⅰ試験免除 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験|独立行政法人情報処理推進機構
午後Ⅰ:記述式
午後Ⅰ試験の概要は以下のとおりです。
- 試験時間:90分(12:30~14:00)
- 出題形式:記述式
- 出題数:3問
- 解答数:2問
午後Ⅰ試験の試験内容は、事例から問題点や解決策を導き出すケーススタディ形式です。出題数3問のうち2問を選んで解答します。午前の試験で問われた専門知識を活用できるかが試されます。特に、実際の業務に即した知識が求められるため、データベースの正規化やSQL文の理解が欠かせません。2024年度の試験では、以下のテーマが出題されました。
- オンライン学習プラットフォームの概念データモデリング
- 総合商社の労務管理システムのデータベース
- 情報システム会社のプロジェクト稼働管理システムのデータベース物理設計・SQL・設計・性能
出典:令和6年度 秋期 データベーススペシャリスト試験 午後Ⅰ 問題冊子|独立行政法人情報処理推進機構
午後Ⅱ:記述式
午後Ⅱの概要は以下のとおりです。
- 試験時間:120分(14:30~16:30)
- 出題形式:記述式
- 出題数:2問
- 解答数:1問
午後Ⅱ試験は、2問のうち1問を回答します。午後Ⅰ試験と同様事例問題ですが、問題文は10ページ以上に及ぶことがあります。そのため、データベースに関する高度な専門知識はもちろん、要点を的確に捉えて論理的に解答する国語力も必要です。2024年度の試験では、以下のテーマが出題されました。
- オートリース会社の車両保守業務におけるデータベースの実装と運用
- 車体部品メーカーの資材調達業務の概念データモデリング
出典:令和6年度 秋期 データベーススペシャリスト試験 午後Ⅱ 問題冊子|独立行政法人情報処理推進機構
データベーススペシャリスト試験に合格するメリット
「合格して実際に役立つのか疑問がある」「勉強時間が無駄にならないか不安」と感じる方もいるかもしれません。データベーススペシャリスト試験は医師や弁護士のような業務独占資格ではありませんが、合格することで多くのメリットを得られます。受験を検討している方は、以下に紹介するメリットを判断材料にしてください。
就職や転職で評価されやすくなる
データベーススペシャリスト試験は、情報処理技術者試験の中でも最難関のレベル4に位置づけられる国家資格です。合格により高度なIT人材であることが証明され、就職や転職で評価されやすくなるメリットがあります。応募書類や面接でデータベースの専門知識をアピールする際にも、国家資格という客観的な根拠が発言に説得力をもたせることが可能です。
また、企業によってはデータベーススペシャリスト試験の合格者を積極的に採用したり、資格手当を支給したりする場合もあります。履歴書や職務経歴書に記載することで他の候補者との差別化が図れるため、就職や転職活動で有利に働きます。
仕事に役立つ専門知識が身につく
データベーススペシャリスト試験では、データベースの設計・開発・運用・保守に関する幅広い知識が問われます。データベース管理者やインフラ系エンジニアなどの業務に役立つ知識やスキルを、学習の過程で身につけられるのもメリットです。
データベーススペシャリスト試験に合格するには単に専門用語を覚えるだけではなく、知識を実際の仕事に活かす実践的な能力が必要になります。そのため、データ資源の管理方法やデータ分析手法、ビジネスへのデータ活用など、現代のIT社会で重要視されるスキルを身につけることが可能です。
他の資格試験で免除制度を利用できる
データベーススペシャリスト試験に合格すると、他のIT関連資格で一部の科目を免除してもらえます。より多くの資格を取得して専門分野を広げたいときに、学習負担を軽減できるのがメリットです。代表的な免除対象資格は以下のとおりです。
- 弁理士試験:論文式筆記試験(選択科目)の理工V(情報)が免除
- 技術士試験:第1次試験(専門科目)の情報工学部門が免除
- ITコーディネータ試験(ITC):一部免除の「専門スキル特別認定試験」を受験可能
出典:国家試験等の一部免除、公的制度の応募資格・募集条件など|独立行政法人情報処理推進機構
データベーススペシャリスト試験は難しすぎ?難易度・合格率
データベーススペシャリスト試験は、IT関連の資格の中でも特に難易度が高いとされる試験です。他の情報処理技術者試験の試験と比較した場合のレベルや、直近の合格率を参考にして、試験がどの程度の難易度なのか確認してみましょう。
難易度はレベル4
情報処理技術者試験は、以下の4つのレベルに分類されています。
- レベル1:エントリ試験(最低限の基礎知識が求められる)
- レベル2:基礎試験(基本的な知識・技能が求められる)
- レベル3:ミドル試験(応用的な知識・技能が求められる)
- レベル4:高度試験(高度な知識・技能が求められる)
このうち、最も難易度が高いレベル4の高度試験に分類されているのがデータベーススペシャリスト試験です。情報システムの企画から保守に至るまでの広範な知識が求められ、それを実務に活かせる高度なIT人材を対象としているため、非常に難易度の高い試験に位置づけられています。
直近の合格率は18.5%
過去5年の合格率は以下のとおりです。
- 2023年度:受験者8,980名 合格率18.5%(合格者1,664名)
- 2022年度:受験者8,445名 合格率17.6%(合格者1,486名)
- 2021年度:受験者7,409名 合格率17.1%(合格者1,268名)
- 2020年度:受験者6,536名 合格率15.8%(合格者1,031名)
- 2019年度:受験者11,066名 合格率14.4%(合格者1,591名)
直近の2023年度試験の合格率は18.5%です。ここ数年では、合格者数は1000名強、合格率は15%前後で推移しています。データベーススペシャリスト試験は非常に難易度が高く、合格するためには計画的かつ継続的な学習が必要不可欠です。
出典:情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 統計資料| IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
データベーススペシャリスト試験合格に必要な勉強時間
一般的に、合格に必要な勉強時間の目安は約200時間とされています。1日2時間のペースで毎日勉強を続ける場合、合格までにはおよそ3~4カ月かかる計算です。データベーススペシャリスト試験は難易度が高いため、合格には相応の準備が必要です。
ただし、合格に必要な学習時間は個人のIT知識や経験によって大きく変動します。例えば、ITの実務未経験者が合格を目指す場合、500時間程度の学習が必要となるケースも少なくありません。200時間はあくまで一般的な目安であり、学習時間には個人差がある点に注意しましょう。
データベーススペシャリスト試験に合格するための勉強方法
ITの実務経験者であっても、対策なしでデータベーススペシャリスト試験に合格するのは困難です。以下の勉強方法を参考に、基礎知識から確実に身につけていきましょう。
参考書で体系的に学習する
データベーススペシャリスト試験は幅広い分野から出題されるため、まずは参考書を使って体系的に知識を習得することが重要です。データベース技術や情報システムの全体像を把握し、基礎知識をしっかり固めていきましょう。
特に、リレーショナルデータモデルやSQL、トランザクション管理などの基本概念は頻出分野です。多肢選択式・記述式の両方の試験で欠かせない基礎となるため、重点的に学習することをおすすめします。
過去問・問題集で繰り返し演習する
勉強の際はインプットだけでなく、アウトプットを意識しながら知識を定着させることが大切です。データベーススペシャリスト試験では専門知識を実際の業務で活用する能力も求められるため、過去問・問題集を繰り返し解いていきましょう。
問題を解く中で出題傾向やパターンを把握できるほか、試験での時間配分の感覚を養えるメリットもあります。過去問演習では淡々と問題を解くのではなく、間違えた箇所や疑問に感じた箇所を深く分析することで、より理解が深まります。
資格スクールを受講する
独学が難しいと感じる場合や、効率よく合格を目指したい場合には、資格スクールの受講も有効な選択肢です。独学とは異なり費用がかかるデメリットはありますが、効率よく学習できる点がメリットです。
TACやスタディングなどの資格スクールでは、専門的なカリキュラムと豊富な教材が用意され講師による直接指導や質問サポートを受けることが可能です。また、同じ試験合格を目指す仲間と出会えるため、学習へのモチベーションを維持しやすくなります。講義や演習に加え、本番に近い形式の対策模試も受講できるため、試験の実践力をより高められます。
実案件に取り組みながら学ぶ
実務を通じて知識を身につけていくのもひとつの方法です。データベースエンジニアやSQL関連の業務に携わることで、実践に役立つスキルを磨けます。
エンジニアやデザイナー向けの人材サービス「FLEXY」では、データベースの業務に関わる案件を豊富に扱っています。専門的な業務を経験しながら知識とスキルを高めたい方は、お気軽にご相談ください。
データベーススペシャリスト試験は「役に立たない」って本当?
データベーススペシャリスト試験は、IT企業への就職・転職を目指す際や、フリーランスとして案件を獲得する際に大きな強みとなる資格です。取得難易度が高く、信頼性の高い国家資格でもあるため、データベース関連の業務に興味がある方には十分に役立ちます。
ただし、ITとの関わりが薄い業種・職種では、年収やキャリアアップの役に立たない可能性があります。実務での活用が評価に結びつかないことがあるため、目指すキャリアプランを明確にし、合格を目指すことが大切です。
まとめ
データベーススペシャリスト試験は、情報処理技術者試験の中でも最も難易度が高いレベル4に分類されます。例年の合格率は15%と低い水準で推移しているため、ITの実務未経験者はもちろん、経験者であっても計画的かつ継続的な学習が必要です。
学習方法としては、独学のほか、資格スクールを受講する方法や、実案件に取り組みながら学ぶ方法があります。知識のインプットに加え、実践的なスキルを磨くためにもアウトプットを意識した学習が合格への鍵です。ぜひ、自分に合った学習方法を見つけ、計画的に取り組んでいきましょう。