SAP ERPとは? R/3やECC6.0の特徴と今後の対応

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SAP社が提供するSAP ERPシリーズは、導入することでコスト削減やコンプライアンスの強化などさまざまなメリットがあるため、世界的に注目されています。しかし、導入する際には注意点もあるため把握しておくことが大切です。本記事では、SAP ERPシリーズの機能やメリット、注意点などを解説します。

SAP ERPシステムとは?

SAP ERPシステムとは、ドイツに本社を置くSAP社が開発した企業資源計画(ERP)ソフトウェアパッケージのことです。 SAP社のERPパッケージは、世界中の大企業を中心に導入されており、世界市場でトップシェアを誇っています。

ERPとは、「Enterprise Resource Planning(企業資源計画)」の略です。 具体的には、企業の持つ経営資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的に活用し、企業活動を円滑にするための統合基幹業務システムを指します。

SAP ERPは、財務会計、販売管理、在庫管理、生産管理、人事管理など、企業のあらゆる業務プロセスを網羅した豊富な機能を提供し続けてきました。これらの複数の業務を一元管理できるため、業務の効率化、コスト削減、意思決定の迅速化、コンプライアンス強化などを実現できるでしょう。

SAP ERPの歴史

SAP ERPシリーズは、1972年に登場して以来、世界中で導入が進んでいます。1970年代の日本では、メインフレームによる統合環境での集中処理を行う企業がほとんどでした。しかし、生産管理や財務会計などの基幹業務は部門ごとに分かれているケースが多く、データの一元管理や連携は難しい状況でした。こうした中で、データの一元管理や連携、可視化などが可能となるSAP ERPシリーズが注目されるようになったのです。

中でも、世界に広く導入されたのは、SAP社が1992年にリリースしたクライアントサーバー型のERPパッケージ「SAP R/3」です。 SAP R/3は、従来のメインフレーム型システムと比較して、処理速度や操作性が飛躍的に向上し、企業の業務効率化に大きく貢献しました。

その後、SAP R/3は進化を続け、現在では「SAP ERP Central Component(SAP ECC)」という名称で提供されています。 SAP ECCは、SAP R/3の機能を継承しつつ、最新の技術やビジネスニーズに対応するために機能強化され続けてきたソフトウェアパッケージです。

また、後継製品であるAP S/4HANAでは、従来のSAP ERPで企業独自の要件に対応するために多く使われてきたアドオンの数を減らすことにも成功しました。

実際に大手企業では、S/4HANA導入プロジェクトにおいて、標準機能を最大限に活用することで、約2400本あったアドオンを約半数の1100本に削減する成果を上げています。以上の結果を残せたのは、「Fit to Standard」と呼ばれる、業務プロセスを搭載することで、システムのスリム化と標準化の実現を目的としたSAPのアプローチがあったからです。

SAP ERPの種類

SAP ERPの種類について、SAP ECC 6.0と 後継製品であるS/4HANAを紹介します。

SAP ECC 6.0

一般的にSAP ERPというと、第三世代のSAP ERPである「SAP R/3」のうち、最も新しいバージョンである「SAP ERP Central Component(SAP ECC 6.0)」を指すことが多くあります。

企業の業務に合わせて機能(モジュール)を自由にカスタマイズして導入でき、企業に最適なシステムを構築できる柔軟性が大きな特徴といえるでしょう。

しかし、SAP ECC 6.0の標準保守は2027年で終了します。 準備が間に合わないユーザーのために、SAP ECC 6.0 Enhancement Pack 8が2030年まで提供されますが、基本的には2027年までに何らかの対応が必要となります。

S/4HANA

SAP S/4HANAは、2015年にリリースされたSAP ERPの後継製品です。 SAP ECC 6.0と比較して、以下の点が大きく進化しています。

データ処理速度の向上 インメモリーデータベース「SAP HANA」を採用し、データ処理速度が飛躍的に向上した。
リアルタイム分析 リアルタイムなデータ分析が可能となり、より迅速な意思決定を支援してくれる。
ユーザーインターフェースの改善 ユーザーインターフェースが刷新され、より直感的で操作しやすいUIになった。
クラウドへの対応 オンプレミスだけでなく、クラウド環境にも対応し、より柔軟な導入が可能になった。

さらに、SAP S/4HANAは、AIや機械学習などのインテリジェントテクノロジーを組み込むことで、業務の自動化や高度な分析を実現し、企業のデジタル変革を支援してくれます。

SAP ERPの主な機能

SAP ERPは、企業のあらゆる業務プロセスに対応する豊富な機能を備えています。主な機能は以下の通りです。

財務管理

財務会計、管理会計、財務管理など、企業の財務に関する業務全般を管理します。 内部会計では、ほかのモジュールの財務データをまとめて管理でき、管理会計では、販売計画、生産性、購買計画など、複数の切り口で財務状況を確認することが可能です。

SAP ERPの財務管理機能は、会計管理と決算処理プロセスを簡素化し、財務リスク管理プロセスを改善するのに役立ちます。 また、データ処理の効率化、作業履歴の可視化、コスト削減にもつながるでしょう。

販売管理

受注管理、出荷管理、請求管理など、販売に関する業務全般を管理します。 社外出荷の管理や棚卸などにも対応しており、物流管理機能も備えています。

また、販売管理モジュールでは、需要予想フレームワークや内示情報などを元に、売上向上のための改善案を提案します。 これにより、企業は自社では気づかなかった販売施策を展開できる可能性があるでしょう。

購買管理

購買依頼、発注管理、入庫管理など、購買に関する業務全般を管理します。 資材やサービスの購買から発注、入庫までのプロセスを一元管理することが可能です。

ロジスティックモジュールに含まれる購買管理は、需要に基づいた購買量の選定、契約条件、承認プロセス、仕入先情報管理、返品などの例外処理業務といった購買に関する広範な業務をカバーしています。 また、国境を越えたビジネスにおける資金の流れも管理できるのも強みといえるでしょう。

人事管理

採用活動、労務管理、人事考課、人材育成、給与計算など、人事に関する業務全般を管理します。人事管理業務をシステム化することで、業務の標準化、自動化を進め、人事担当者の負担を軽減することも可能です。 特に、人材採用や部署異動が多い企業にとってはおすすめの機能といえるでしょう。

また、一元化された人事情報に基づき、正確な人事データ分析が可能になり、戦略的な人事施策の立案にも役立ちます。

生産管理

生産計画、製造管理、原価管理など、生産に関する業務全般を管理します。 原材料の数量や在庫状況などを分析し、原価の見直し・工程の改善につなげることが可能です。

SAPの生産管理モジュールは、企業の生産活動を包括的にサポートする機能を提供しており、企業の求める要件に応じて柔軟な対応を可能にします。

SAP ERPの導入メリット

SAP ERPを導入することで、以下のようなメリットを享受できます。

業務の効率化によるコスト削減

業務プロセスを標準化し、自動化することで、業務効率を向上させ、人件費といったコストの削減を実現できます。具体的には、情報の一元管理によるデータ連携や共有にかかる人的コストの抑制、標準化による業務プロセスの効率化、無駄な作業の削減などに効果的です。

リアルタイムでデータを一元管理

企業内のあらゆるデータをリアルタイムに収集、統合、一元管理することで、情報の精度や信頼性を向上させます。 一方で、部門ごとに個別管理される業務システムでは、データの引き継ぎや共有に時間・手間がかかっていました。しかし、リアルタイムでの一元管理が可能になると、データ処理の効率化、ひいては人件費の大幅な削減が期待できます。

さらに、リアルタイムなデータに基づいた経営ダッシュボードやレポートにより、経営状況をタイムリーに把握し、迅速な意思決定を支援してくれます。

コンプライアンスの強化

内部統制機能や監査証跡機能を備えており、コンプライアンス強化に貢献します。 データの入力・変更履歴はユーザーIDと紐づけて記録されるため、不正なデータ入力や改ざんがあった場合でも、見落とすこともありません。

また、労働基準法などの法令に準拠した人事管理業務が行えるのも大きな特徴です。

グローバル展開の対応

多言語、多通貨、国際会計基準に対応しており、グローバル展開している企業の経営管理を支援します。 各国の通貨、法制度、商習慣に合わせたシステム構築が可能です。

また海外拠点の取引データや業務データも一括管理できるようになるため、グローバル展開に関するコスト削減と業務の効率化を実現するのも難しくありません。

SAP ERP導入の注意点

SAP ERPは優れたシステムですが、導入には以下のような注意点を考慮しなければなりません。

導入・運用コストがかかる

SAP ERPには、豊富な機能を備えているため、ライセンス費用や導入支援費用など、高額なコストがかかります。 ユーザー数やカスタマイズの規模によっては、費用がさらに高額になる可能性があるでしょう。

また、海外拠点にも同時期に導入する場合、整備に時間がかかる場合もあります。 中小企業でも導入に数千万円かかるケースがあります。

専門知識のある人材を確保する必要がある

SAP ERPは複雑なシステムであるため、導入、運用、保守には専門知識を持った人材が必要です。 SAPのみで使われるプログラミング言語「ABAP」など、複雑な機能をすべて把握・理解できる専任の運用責任者が必要でしょう。 ABAPに対応できるエンジニアは多くないため、人材確保が課題となります。

定着に向けた取り組みが必要

SAPなどのERPシステムは、業務効率化やコスト削減などのメリットがある一方、操作が複雑なため、定着に向けた取り組みが不可欠です。 特に、以下で解説する既存業務の棚卸と見直し、業務要件の網羅、習熟度の向上が重要になります。

既存業務の棚卸と見直し 現状の業務プロセスを分析し、非効率な部分を明確化しておくことで、導入効果を高められる。
業務要件の網羅 企業全体のニーズを把握し、SAPで対応可能な範囲を見極めることで、費用対効果の高いシステム構築を実現できるようになる。
習熟度の向上 現場社員への操作指導や、継続的な学習環境の提供など、システムの使いこなしを支援することで、定着率の向上につながる。

SAP ERPの2027年問題

SAP ERP ECC 6.0の標準保守が2027年に終了することに伴い、SAP ERPを利用している企業は、以下の対応を選択する必要があります。

  1. SAP S/4HANAへ移行する
  2. 移行せずに継続して利用する
  3. 他のERPサービスへ移行する

SAP社が推奨しているのは、最新版のSAP S/4HANAへの移行です。移行を行えば、既存のSAP ERPの機能を引き継ぎながら、より高速な処理性能、リアルタイム分析、ユーザーフレンドリーなインターフェースなどを活用できます。

移行せず継続して利用する場合は、保守期限を2030年末まで延長できる延長保守サービスや、第三者による保守サービスを利用するなどの対策を取りましょう。しかし、機能拡張や最新技術の導入は難しく、競争力維持の面では懸念が残ります。

また、クラウドベースのERPサービスといったSAP社以外のERPサービスへ移行する選択肢もあるでしょう。ただし、システム選定から導入まで、多大なコストと時間がかかるだけでなく、過去に蓄積したデータやノウハウが活用できなくなるかもしれません。

したがって、 現段階では移行せずに継続することも可能ですが、将来的にはSAP S/4HANAへ移行することを念頭において利用することをおすすめします。

まとめ

SAP ERPは、財務管理や販売管理、購買管理などの機能が備わっており、導入すれば、業務効率化やリアルタイムでデータを一元管理するなどのさまざまなメリットがあります。しかし、導入・運用コストがかかったり、専門知識が必要な人を確保したりするなど注意すべき点もあります。

昨今、2027年の移行に向けて、ERPの乗り換えやカスタマイズなどの需要が増加している状況です。SAPやERP周りの開発案件を獲得したいエンジニアやPMの方は、FLEXY(フレキシー)の案件をぜひ確認してみてください。

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