ABAPとは? SAP開発言語の難易度や勉強法、将来性

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ドイツのSAP社が提供する、ERPシステム「SAP ERP」を導入している企業は多いでしょう。SAP ERPを利用するうえでは「ABAP」の使い方を知っておくことが重要です。本記事ではABAPとは何か、基本からわかりやすく解説します。ABAPの学習を考えている方はぜひ参考にしてください。

ABAPとはSAP開発で重要な言語

ABAP(Advanced Business Application Programming)とは、SAP社が開発した独自のプログラミング言語のことです。ERPシステムである、SAP ERPのプラットフォーム上でのみ利用できます。

ABAPを用いてプログラムを開発すれば、レポート作成の自動化など、SAP ERPのカスタマイズや業務効率化が可能です。SAPは世界でトップシェアを誇るERPシステムであり、SAPを扱う多くの企業にとって有用なプログラミング言語といえるでしょう。

SAP ERPは、1972年に誕生した長い歴史をもつERPシステムです。そして、ABAPが登場したのは1980年代であり、SAP ERPの歴史において比較的初期から存在します。ABAPには40年以上の歴史がありますが、昨今でも多くの企業やエンジニアに使われています。

ABAPの特徴

ABAPについてのイメージを具体化するために、特徴を紹介します。ABAPの特徴は、主に次の3つです。

SAP ERPでの利用に特化している

ABAPは、SAP ERPでの利用に特化したプログラミング言語といえます。そのため、基本的にSAP以外の開発環境などを用いてABAPを使えません。

高級言語である

ABAPは、一般的な大半のプログラミング言語と同じく「高級言語(高水準言語)」です。高級言語とは、人間が理解しやすい形式で記述できるプログラミング言語を指します。ABAPの文法は、英単語などを組み合わせたものが多いため、直感的に理解しやすいでしょう。

オブジェクト指向の考え方を適用している

ABAPは「オブジェクト指向」の考え方を適用しています。オブジェクト指向とは、人やものといった要素を「オブジェクト」という単位で扱う考え方のことです。オブジェクト指向には、1つのひな型(クラス)を複数オブジェクトの生成に再利用できるなど、開発の効率を高める仕組みが備わっています。そのため、チームでABAPを利用する際にもスムーズに開発できるでしょう。

ABAPでできること

ABAPで具体的に何ができるのか知っておきましょう。ABAPでできることは、主に次の6つです。

SAP ERPのカスタマイズ

SAP ERPには販売管理や在庫管理など、さまざまな機能があります。ABAPを使用すれば、これらの標準機能を業務プロセスに合わせて柔軟にカスタマイズが可能です。

例えば、SAP ERPの在庫管理機能にABAPのプログラムを適用して、在庫数が一定の割合を下回った際に自動で補充できます。ABAPのルールに沿ってプログラムを開発することで、操作画面だけでは実現が難しいニーズにも柔軟に対応できるのが強みです。

アドオン開発

ABAPを用いることで「アドオン開発」も行えます。SAP ERPにおけるアドオン開発とは、標準機能とは別に独自の追加機能(アドオン)を作り上げることです。

例えば、データベースから自社に必要なデータのみを抽出し、独自の帳票を出力するアドオンを開発できます。ABAPでアドオンを開発することで、標準機能にはない企業のニーズに合った独自機能をプラスできるのが強みです。

レポート作成

ABAPを用いることで、データベースから取得したデータを集計・分析して、独自のレポートとして出力する機能を実現可能です。

例えば、当週の売り上げデータを集計して販売実績の週刊レポートを作成するケースが考えられます。作成したレポートを関係者へ自動で通知するプログラムを開発すれば、迅速に情報共有できるでしょう。

バッチ処理

ABAPを用いることで「バッチ処理」も実現できます。バッチ処理とは、大量の件数があるデータをまとめて処理することです。バッチ処理のプログラムを開発すれば、手動では時間のかかる集計作業などの負担を大幅に減らせるでしょう。

またSAP ERPには、ABAPで開発したバッチ処理プログラムを定期実行する機能もあります。例えば、深夜0時にバッチ処理が実行されるようにすることで、業務時間外でもバッチ処理を実施可能です。

Dynpro(ディンプロ)の開発

SAP ERPには「Dynpro(ディンプロ)」と呼ばれる独自機能もあります。Dynproとは、ユーザーが対話形式で使える専用のGUI(操作画面)を作れる機能のことです。ABAPを用いることで、ユーザーにとって利便性の高いDynproを開発できます。

例えば、ユーザーが入力した金額を用いて独自の経費精算書を作成する機能が考えられます。ただし注意点として、Dynproの開発には画面の設計に必要とされる高度なスキルが必要です。

汎用モジュールの開発

ABAPを用いることで「汎用モジュール」も開発できます。汎用モジュールとは、複数の用途・プログラムにわたって再利用できる「部品」のようなプログラムのことです。よく使う機能を汎用モジュールとして定義しておけば、必要なタイミングで再利用できるので、開発時間の短縮につながります。

例えば、「顧客コードが自社のルールに沿っているかチェックする」という汎用モジュールを開発したとします。そうすれば、Dynproで作った複数のGUIに顧客コードの入力欄があった場合でも、1つの汎用モジュールを使い回せます。同様のコードを何度も記述せずに済むため、生産性向上につながるでしょう。

ABAPを学ぶメリット・将来性

ABAPを習得するには、コードの書き方や使い方についての学習が必要です。しかし、ABAPを習得すれば、SAP ERP関連の業務を自動化・効率化し、負担軽減や成果アップを図れます。SAP ERPを扱う企業向けのコンサルタントなど、キャリアの選択肢も増えるでしょう。

ABAPを用いたフリーランス向けの開発案件も豊富にあります。フリーランスとして自由なスタイルで働きつつ、スキルを活かして高収入を狙えるのが、ABAPを学ぶメリットです。

また、ABAPのエンジニアは、将来性のある仕事です。SAP ERPは長い歴史をもちながら、ERPシステム市場を世界的にリードしています。多くの企業が根強くSAP ERPを利用しているため、ABAPの需要は今後も見込めるでしょう。

なお、現在多くの企業が導入している「SAP ERP 6.0」のサポート期限が2027年末に終了するため、最新の「SAP S/4HANA」へ移行していくことが予想されます。とはいえ、SAP S/4HANAでもABAP自体は利用できるため、需要が急になくなることは考えにくいでしょう。

ABAPの難易度

ABAPスキルの習得難易度は、一般的なプログラミング言語と比べて特別高いわけではありません。ABAPにおける文法の多くは英単語で構成されており、理解しやすいといえます。ある程度のプログラミング経験があれば難なく習得できるでしょう。

ただし、SAP ERPのプラットフォーム上における利用が前提となるため、SAP ERPの前提知識も必要です。SAP ERPの経験が少ない場合、前提知識の学習から必要になることを留意しておきましょう。

またABAPの文法は、事務処理を得意とする「COBOL」などと似ています。「Java」や「Python」といった昨今の人気プログラミング言語と比べるとやや独特なため、最初のうちは慣れないと感じるかもしれません。

ABAPの基本構文とデータ型

ここでは、ABAPの基本的な書き方を簡単に紹介します。

基本的には半角を使う

データ出力といった命令文、あるいは変数名や関数名などのキーワードには、基本的に全角文字が許容されません。そのため、半角の英数字を使いましょう。なお、コメントや変数に代入する文字列データなどには、全角の文字を使うこともできます。

各命令文はABAP キーワードから始める

各命令文は「ABAP キーワード」、つまりABAPにおいて特別な意味をもつキーワードから始める必要があります。たとえば、画面にデータを出力する命令文は「WRITE」、変数宣言する命令文は「DATA」から始めるのが基本です。

各命令文はピリオド(.)で終える

ABAPでは、命令文の終わりをピリオド(.)で判断するため、各命令文はピリオドで終えましょう。

各単語は半角スペースで区切る

単語と単語の間は半角スペースで区切る必要があります。これは一般的なプログラミング言語と変わりません。

コメントを入れる場合はアスタリスク(*)またはダブルクォーテーション(”)を使う

コメント(プログラム内に残しておくメモ書き)を入れたい場合は、アスタリスク(*)またはダブルクォーテーション(”)を使います。行全体をコメント化したい場合は、行頭に「*」をつけましょう。行の途中からコメント化したい場合は、該当箇所で「”」をつけてください。それ以降の記述が命令文としての意味をもたなくなり、コメントとして扱われます。

大文字と小文字の区別はされない

ABAPでは大文字(Aなど)と小文字(aなど)は区別されません。例えば「DATA」と「data」は、ともに変数宣言の命令文と見なされます。ただし、ABAPキーワードは大文字で記述することが慣例です。

ABAPで使える主なデータ型

ABAPにはさまざまなデータ型(データの種類)があります。ABAPで扱える主なデータ型を下にまとめました。

  • I:整数
  • F:浮動小数点数
  • D:日付(”YYYYMMDD”のフォーマットで表現)
  • T:時刻(”HHMMSS”のフォーマットで表現)
  • C:固定長文字列(後ろに”LENGTH 文字数”をつけて文字数を指定)
  • STRING:可変長文字列(文字数の指定は不要)

例として、可変長文字列型の変数「name」を定義し、初期値を「dog」とする場合のサンプルコードは次のとおりです。TYPEでデータ型、VALUEで初期値を指定できます。なお、TYPEなどのキーワードを大文字、変数名やデータ型を小文字で指定すると読みやすくなります。

DATA: name TYPE string VALUE ‘dog’.

ABAPの主な制御構造

続いて、ABAPで扱える主な「制御構造」を確認しましょう。ABAPにおける制御構造とは、プログラムの流れを制御するための構文のことです。制御構造によって、条件を満たすときだけ処理を実行したり、同じ処理を繰り返したりできます。

IF文

「IF文」は、指定した条件を満たすときのみ処理を実行させる制御構造です。例えば「年齢(age)が20歳未満のときのみメッセージを出力」といった条件がある場面で役立ちます。IF文の基本的な書き方は次のとおりです。各行の終わりにピリオドが必要な点に注意しましょう。

・IF 条件式1.
条件式1を満たすときに実行する処理.
・ELSEIF 条件式2.
条件式1は満たさないが、条件式2を満たすときに実行する処理.
・ELSE.
どの条件式も満たさないときに実行する処理.
ENDIF.

ELSEIFは条件式の数に合わせて増やしても、1つもなくても構いません。ELSEは省略できますが、省略しない場合はELSEIFよりも後に記述しましょう。ENDIFでIF文の条件分岐を終了します。

CASE文

「CASE文」は、ある変数の値に応じて処理を分岐させる制御構造です。たとえば「血液型(blood_type)の値(A/B/O/AB)に応じて、異なるメッセージを出力」といった場面で有効です。IF文では各条件式が独立しているのに対し、CASE文では1つの変数値に従う点に違いがあります。

CASE 変数名.
・ WHEN 値1.
変数値が値1のときに実行する処理.
・WHEN 値2.
変数値が値2のときに実行する処理
・WHEN OTHERS.
変数値がどの値にも該当しなかったときに実行する処理.
ENDCASE.

IF文と同様に、各行の終わりにピリオドをつけましょう。WHENは少なくとも1つ以上は必要です。WHEN OTHERSは省略することもできます。ENDCASEでCASE文の条件分岐を終了します。

ABAPの勉強方法

ABAPスキルの習得に向けて、これから勉強したいと考える方も多いでしょう。ABAPの勉強方法はさまざまですが、一般的なものは次の2つです。

ABAPの参考書を読む

ABAPは歴史が長いため、さまざまな参考書が出版されています。体系的に知識がまとめられた参考書であれば、多くの知識を1冊でまとめて吸収できるでしょう。ただし、実践学習ではパソコンを使うため、参考書を見ながらだと不便に感じやすいデメリットもあります。

Webサイトを活用する

ABAPについて勉強できるWebサイトも数多くあります。Webサイトであればパソコンを使いながら知識を吸収できるため、実践学習をスムーズに行いやすいでしょう。ただし、高品質な学習サイトだと月額料金が発生するケースもあります。

なお、ABAPについて勉強する場合、基本的な文法・書き方を学ぶだけでは不十分です。SAP ERPのデータベースと連携させるためのデータベース操作方法、Dynproを開発するための画面設計テクニックなども勉強しましょう。

ABAP関連資格:SAP認定コンサルタント資格

習得したABAPスキルを活かして案件獲得を図る場合、ABAPに関連する資格を取得することも効果的です。ABAPやSAP ERPに関する実務経験が少ない場合、資格は心強いアピールポイントとなります。代表的なABAP関連資格としては「SAP認定コンサルタント資格」があります。

SAP認定コンサルタント資格は、SAP ERPの活用に関する知識やスキルを証明できる認定資格です。SAP ERPを提供するSAP社公式のため、信頼性が高く、転職活動やフリーランスの営業活動においてアピール効果が期待できます。試験区分はさまざまですが、「SAP Certified Associate – Back-End Developer – ABAP Cloud」などはABAPの高い専門性をアピール可能です。

資格取得に役立つ教材も多岐にわたります。なかでも、SAP社公式の学習サービス「SAP Learning Hub」は確実に正しい知識を身につけられるでしょう。

ABAPの案件を獲得するには

ABAPに関する案件は豊富にありますが、自分のスキルに合った好条件なものを探すことは簡単ではありません。特にフリーランスで収入アップを目指している場合、いかにして案件を獲得するかが重要といえます。

ABAPの案件を探す際には、専門の案件紹介サービスを活用するのがおすすめです。なかでも「FLEXY(フレキシー)」にはハイスキルを活かせる高品質な案件が多数あり、ABAPに関する案件も検索できます。身につけたABAPスキルを活かして案件獲得・収入アップを実現したい方は、ぜひFLEXYに無料で登録し、自分に合ったABAP案件を探してみてください。

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まとめ

ABAPとは、SAP社が開発した独自のプログラミング言語のことです。世界的に人気の高いSAP ERPのプラットフォーム上で利用でき、業務の自動化・効率化を実現できます。SAP ERPの需要が高いことを考えると、今後もABAPの需要は期待できるでしょう。

プログラミング経験があれば、ABAPの習得は十分可能です。ただし、さまざまな文法や周辺知識を身につける必要があるため、一朝一夕で習得できるわけではありません。また、習得したABAPスキルを収入アップにつなげる上では、効果的な案件の獲得方法を選ぶことも大切です。ABAPのスキル習得や案件獲得を目指す際には、本記事の内容をぜひ参考にしてください。

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