2027年問題とは?企業が取るべき対応策や課題について解説

2027年問題

世界180か国以上に導入実績があり、多くの日本企業でも導入されている「SAP ERP 6.0」の標準サポートが2027年末で終了します。同製品を導入している企業は、この「2027年問題」に対して、ERPの移行などを含め、対応策を講じなければいけません。本記事では、2027年問題の概要や企業が取るべき対応策、懸念される課題などを解説します。

2027年問題とは?問題の概要を簡単に解説

2027年問題とは、SAP社が提供するERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システム「SAP ERP 6.0」の標準サポートが2027年末に終了することに起因する問題です。

サポート終了後にも、プログラムの修正パッチや改善サポートなどを受けられないままシステムを使用し続ければ、サイバー攻撃のリスクが高まり、ERPで取り扱っている膨大な機密情報が漏洩の危機に晒されます。サポートが終了してしまうので、万が一トラブルが発生したとしても、ベンダーからの支援は受けられません。

重要な基幹システムであるERPが機能不全を起こすようなことがあれば、事業の運営に多大な支障が出ることは必至です。SAP ERP 6.0を導入している企業は、2027年問題の解決に向けて対応策を講じる必要があります。

対応策のひとつに、追加料金を支払うことによって標準サポート終了期限を2030年まで延長させる方法があります。しかし、古いシステムを延命させるためにIT予算を圧迫することは、企業にとって望ましい状況とはいえません。2030年には延長保守は終了するため、早かれ遅かれ別の対応策を講じる必要があります。

SAP社のERP製品は世界ではNo.1シェアを誇り、日本国内でも大手企業を中心に約2,000社への導入実績があって、トップシェアを争っています。SAPの2027年問題への対応は、多くの国内企業が共通して抱えている課題といっても過言ではありません。

出典:Top 10 ERP Software Vendors, Market Size and Market Forecast 2023-2028|APPS RUN THE WORLD

2025年から保守期限が延長された背景もある

SAPの2027年問題は当初「2025年問題」といわれていました。SAP ERP 6.0のサポート終了期限は以前、2025年末に設定されていたからです。SAP社が2027年末へのサポート期限の延長を発表したのは2020年2月ですが、それでもERPの移行などが間に合わず、延長を要望する企業が多かったのではないかと考えられています。

2年間期限が延長され、2027年末でサポートが終了するのは、EhP(Enhancement Package) 6以降が適用されている「SAP ERP 6.0」です。EhP 5以下か、EhPが適用されていない製品は予定通り2025年末にサポートが終了します。

2027年問題に向けて、企業が取るべき対応策とは

SAPの2027年問題に対して企業が取り得る対応策としては、以下の4つが挙げられます。

  • SAP社推奨の「SAP S/4HANA」に移行する
  • SAP社に延長保守料金を支払い、サポート終了期限を2030年までに延ばす
  • 第三者保守を利用し、同じくシステム移行を先延ばしにする
  • SAP社以外のERPに移行する

SAP社推奨の「SAP S/4HANA」に移行する

第一の選択肢は、SAP社が提供する最新のERP製品「SAP S/4HANA」に移行することです。同じSAP社製のSAP S/4HANAであれば、これまでの使用感やノウハウを活かせる可能性は高いと考えられます。

また、純粋に最新機能を備えたERPを使えることや、クラウド化の恩恵を受けられることもメリットです。さらに、コア技術としてインメモリデータベース「SAP HANA」を採用しており、高速な処理が行えるという特徴もあります。

ただし、同じSAP社製品といえども多少のコストが必要とされる要件定義やアドオンの最適化などは行う必要があり、抜本的な業務改革に比べて費用対効果は見合うか考慮すべき課題はあります。

SAP S/4HANAへの移行方法としては「リビルド(Green Field)」「コンバージョン(Brown Field)」「BLUEFIELD(ブルーフィールド)」があります。

リビルド(Green Field)

SAP S/4HANAで新規にシステムを再構築する方法です。新たに一からシステムを作り直すので、SAP S/4HANAの最新機能を最大限に活かせる反面、費用や移行期間、業務に与える影響などは大きくなります。

コンバージョン(Brown Field)

既存のシステム設定や要件はそのままにSAP S/4HANAへ移行する方法です。データ構造を変換する必要はあるものの、リビルドよりも費用や工数を抑えられ、現場への影響も小さくて済みます。ただし、SAP S/4HANAが提供する最新の機能やサービスを十分に享受できなくなるデメリットがあります。

BLUEFIELD

第三の移行方法が「BLUEFIELD」方式によるアプローチです。具体的には、データとシステムを分離し、システムを優先的に「SAP S/4HANA」に移行させてから、業務に必要なデータだけを段階的に移行します。

「SAP S/4HANA」を新規で導入する「リビルド」と、現行システムを可能な限りそのまま利用する「コンバージョン」との中間に位置する移行方法です。SAPの公称値では、移行にかかる時間はリビルドの1/4程度にまで短縮することが可能です。

SAP社に延長保守料金を支払い、移行期限を2030年までにする

SAP社に延長保守料金(保守基準料金の2%)を追加で支払えば、サポート終了期限を2030年末までに延長できます。根本的な解決にはなりませんが、すぐに新たなERPへ移行したり、業務を刷新したりするのが難しい場合には検討の価値があります。ただし、延長保守の対象となるのはEhP 6以降が適用されているSAP ERP 6.0だけで、稼働させているサーバの更新にともなう不具合などはサポート対象外です。

第三者保守を利用しシステム移行を先延ばしにする

SAP社以外の企業にSAPシステムの保守を依頼する方法です。サードパーティ保守あるいは第三者保守などと呼ばれます。この方法のメリットは、SAPの保守が切れる2027年末または2030年末以降も現行のシステムをそのまま利用し続けられる点です。ただし、SAP社によるメンテナンスではなく、システムに第三者の手が入るため、事前にSAP社に相談することをおすすめします。

さらに、セキュリティなどは第三者であるベンダーのアドオン開発に頼るしかありませんが、どこまで迅速・適切な対応が行われるのかは不明です。いずれにせよ、古いERPを使い続けることには、さまざまな点でデメリットがあります。

SAP以外のERPへと移行する

最後の方法が、SAP社以外のERPに乗り換えることです。自社に適したシステムや業務体系をゼロベースで考え直したい企業にとっては、大いに検討の価値がある選択肢です。

ただし、SAP社以外のERPを新たに導入することは、「SAP S/4HANA」への移行以上に業務に与える影響が大きくなります。もちろん人的コストや時間的コストなども段違いにかかります。

もし、この方法を検討しているのであれば、SAP S/4HANAへ移行した場合との比較を十分に行った上、移行にともなう費用や時間、業務の変更レベルなどが許容できる範囲かを慎重に検討する必要があります。

2027年問題に向けて企業が備えるべきこと

現行のSAP ERP 6.0を使い続けるにせよ、SAP社製または他社製のERPに移行するにせよ、2027年問題に対応するために企業が行うべきことがあります。その例が以下の通りです。

  • 業務フローの標準化
  • 既存システムの確認・整備
  • Unicode化
  • インフラおよびERPの入れ替え線表の作成

業務フローの標準化

SAPの2027年問題に対して、まずSAP ERPを導入している企業が行うべきは業務の標準化です。

ERPのような基幹システムを導入する際には、システムが提供する標準機能や業務プロセスに適合するように自社の業務を変更していく「Fit to Standard」という考え方が近年重視されています。

基幹システムで提供される機能は汎用的なものであり、システム側を各社固有の業務フローに合わせようとすることは、変化の速いビジネス環境にあっては、合理的ではないからです。もちろんアドオン(拡張機能)の開発が膨大になり、コストが増大したり、予期せぬ障害の引き金になったりする懸念もあります。

業務フローをERPに適合するように変える(=業務を標準化させる)方が合理的です。業務の標準化は、業務から無駄や属人性を排除することにもつながります。2027年問題をきっかけに、業務フローをあらためて見直してみるのがおすすめです。

既存システムの確認・整備

システムを移行する場合に備えて、現行のシステムの問題点を洗い出すことも重要です。ここでは特にシステムの設計や連携に問題はないかを確認します。仮に現在のシステムがなくなった場合に、現場にどのような影響が生じるのかを確認することも重要です。

SAPの2027年問題に対してどのような対応を取るにしても、既存システムの確認・整備は今後のために重要な意味をもつ作業です。

Unicode化

SAP S/4HANAへの移行を検討している場合で、コンバージョン(Brown Field)での移行が視野に入っているのであれば、ECC(ERP Central Component:クライアント・サーバ型のERPパッケージ)の文字コードがUnicodeの必要があります。

SAPは1992年にリリースされ、「世界で最も広く利用されたERP」といわれるR/3時代にはNon-Unicodeが主流でした。古くからSAP ERPを使用し続けている場合は、Non-Unicode環境の可能性があり、その場合にはUnicode化する必要があります。

Unicode化に際しては、データベースに保存されているすべてのデータを一度エクスポートし、システムをUnicode用に再構築した上で、エクスポートしたデータをインポートします。この際にシステムのダウンタイムが発生することは避けられません。業務への影響を最小限にとどめるためには、事前に十分な準備をしておく必要があります。

インフラおよびERPの入れ替え線表の作成

自社のIT基盤を長期的に盤石にするためには、インフラおよびERPの入れ替え線表(ガントチャート)を作成しておくことも重要です。ERPの入れ替えだけにフォーカスするのではなく、稼働させるインフラのリプレースなども含め、すべての移行スケジュールを線表に落とし込むことをおすすめします。

システムを入れ替えても、稼働させるためのサーバなどの寿命がすぐにきてしまうこともあります。仮にインフラおよびERPをすべて入れ替える場合、タスク、工数、スケジュールがどのようになるのかは、担当者が把握しておくことが必要です。入れ替え線表を作成しておけば、経営層や情報システム部門が状況を把握しやすくなるだけでなく、現場へのアナウンスを行う総務部門などとも情報を共有しやすくなります。

2027年問題で懸念される課題

SAPの2027年問題に対応するにあたって、懸念される課題があります。それは、以下の2つです。

  • IT人材をどのように確保するか
  • 2027年時点での最適解をどのように想定するか

IT人材をどのように確保するか

第一の課題は「必要なIT人材をいかに確保するのか」です。経済産業省が2019年3月に公表した「IT 人材需給に関する調査」によれば、2030年までIT人材の供給は増加傾向を続けるものの、需要が供給数を上回り、人材不足に陥る(需給ギャップが生じる)懸念が指摘されています。2015年当時の試算で、2025年までに最大約58.4万人、2030年までには最大約78.7万人のIT人材が不足すると考えられています。

IT人材が不足すれば、システムの円滑な移行などが難しくなる企業が増えることは避けられません。SAP ERPは国内約2,000社で導入されており、SAPの2027年問題は多くの日本企業が直面する問題です。対応策を取ろうとしても、高度なスキルをもつIT人材はすでに手一杯になっており、移行などが遅延する、あるいは最悪の場合、対応策そのものを講じられなくなる恐れもあります。

企業は早期にIT人材の確保や育成に乗り出し、余裕をもってSAPの2027年問題への対応を始めることが重要です。

出典:IT人材需給に関する調査|経済産業省(p.17)

2027年時点での最適解をどのように想定するか

SAPの2027年問題に対応するにあたって悩ましいことのひとつに、「2027年時点での最適解をどのように想定するのか」が挙げられます。そもそもシステムをオンプレミスにするのか、クラウドにするのかから選択が分かれます。

例えば日本政府では、2018年6月に初版を公表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」のなかで「クラウド・バイ・デフォルト」=「政府情報システムを整備する際には、クラウドサービスの利用を第一候補とする」という考え方を示しています。SAPで考えれば、SAP S/4HANAがクラウドサービスの一形態であるSaaS(Software as a Service)版として提供されています。

導入の手軽さ、運用コストの安さ、セキュリティやアップデートを含めた運用管理の効率性、最新の機能を常に利用できる利便性など、クラウドサービスには多くの強みがあります。一方、ベンダーにセキュリティを依存する不安や、(サービスを利用する側の)企業規模が巨大につれ、運用コストのメリットがなくなる可能性などが指摘されており、一部でオンプレミス回帰の動きが見られることもたしかです。

ERPに関してはすでにクラウドが主流であり、今後もその流れが変わることは少なくとも現時点では考えづらいです。「Fit to Standard」にもとづいて業務内容の標準化を進めていくことが推奨されますが、将来的にもクラウドが主流であり続ける保証はなく、どのような選択を取るべきなのか、経営判断は容易ではありません。

出典:政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針(p.4)

まとめ

SAP ERP 6.0を導入している企業は、サポート期限が終了する2027年末までに対応策を講じなければいけません。おもな対応策としては、SAP S/4HANAへの移行、SAPの延長保守または第三者保守の利用、ほかのERPへの移行が挙げられます。

システムを移行する際には、高度なスキルをもつIT人材が不可欠です。「FLEXY」は、エンジニアなどを中心とした「ハイスキルなプロ人材サービス」として、優秀なIT人材と企業とを結びつけてくれます。ERP案件を求めているエンジニアも、ERPの移行にともなって人材を確保したい企業の担当者もぜひ一度、FLEXYのサイトを訪れてみてください。

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