ERPとSAPの違いは?それぞれの特徴や導入のメリットを比較
企業経営において、データ分析にもとづいた判断を下す際、基幹業務を管理するERPシステムが必要です。そんなERPシステムと混同しやすいものとして「SAP」があります。単語自体は異なるものの、意味が似ているので間違った解釈をしている方も多いでしょう。ERPシステムとSAPの違いを正確に理解したい方は、ぜひご確認ください。
目次
ERPとSAPの違いを簡単に説明
ERPは、業務プロセス全体を効率化するシステムを指します。一方で、SAPは、ERPシステムを提供する代表的な企業を指します。双方の違いについて、以下で詳しく見ていきましょう。
ERP(Enterprise Resource Planning)とは
ERPとは、日本語に直訳すると「経営資源計画」を意味する言葉で、人事や会計、生産、物流、販売など、企業におけるあらゆる基幹業務をまとめて管理するシステムです。業務の効率化だけでなく、大量のデータをまとめて管理できるため、素早い経営判断につながるでしょう。主に、Oracle社やMicrosoft社、Intuit社などが手がけています。
ERPシステムが普及する前は、それぞれの部門でひとつのシステムを活用しており、各部門が専門的に業務を担っていました。しかし、経営の観点でみると、生産性に課題があったとされています。そこで登場したのがERPです。ERPが登場したことで経営資源をまとめて管理し、経営基盤の変革が可能になりました。
ERPは、基幹業務を統合管理するシステムになりますが、基幹システムとは異なります。基幹システムは財務会計や生産・販売管理など、基幹部門の業務に関するデータを管理するためのシステムであり、それぞれの部門ごとに設置するのが一般的です。そのため、統合管理するERPとは内容が異なることを理解しておきましょう。
ERPの種類
ERPは、大きく「統合型」「コンポーネント型」の2種類に分けられます。統合型は1つのシステムですべての業務を統合的に管理できるタイプです。一元化することにより、集計から分析、レポート作成まで行えます。なお、OracleやMicrosoftなどの海外製品は、統合型を採用しているケースが多くみられます。
一方で、コンポーネント型は会計や生産などの業務が単位ごとに分かれており、必要なシステムだけを組んで取り入れるタイプです。自社に合わせて柔軟にシステム構築を変更できます。例えば、予算の関係上最小限のシステムだけ取り入れたい場合にも適しており、あとから追加でカスタマイズすることも可能です。
また、クラウド型とオンプレミス型にも分けられます。クラウド型はネット上のシステムを活用するタイプであり、オンプレミス型は自社に設置したサーバの中でシステムを構築するタイプです。
クラウド型はさらに細分化でき、ベンダーが提供する「パブリック型」、自社だけの環境で構築できる「プライベート型」、パブリックとプライベートのメリットを組み合わせた「ハイブリッド型」があります。
SAP(Systems, Applications, and Products)とは
SAPとは、ドイツに本社を構える世界シェア1位のソフトウェア開発会社を指します。本来は企業名を指す言葉ですが、開発・提供するERP製品も「SAP」と呼ばれるようになりました。
SAPのERPシステムはこれまでアップデートを繰り返し、機能が拡充化されてきましたが、システムの肥大化や処理速度の低下がみられることから、2027年にサポートが終了する旨が発表されています。現在はすでに後継として「S/4 HANA」をリリースしており、後継版への移行が公式より推奨されています。
SAPの特徴
SAPの次世代ERPであるS/4 HANAは、インメモリ技術が採用されています。インメモリはRAM(主記憶装置)にデータを展開し、高速で処理を行うデータベースです。従来のオンディスクデータベースでの処理に比べて素早く処理できます。
また、インメモリ技術により電源を落としたときにストレージへデータの保存処理が行われるため、データが消失するリスクも防ぐことが可能です。
他社が提供するERPは機能単位で設計される傾向にあり、トレンドの変化や業務の変更などがあったときに、不整合が発生する可能性があります。一方で、SAPのERPはシステム自体が業務プロセスになるよう開発されているため、不整合が発生しません。
【観点別】ERPとSAPの違いを比較
他社のERPとSAPの違いについて、さらに掘り下げて比較しましょう。以下では、導入するメリットや主な機能などを観点別に見ていきます。
導入するメリット
まず、ERPとSAPを導入することで得られるメリットを解説します。
ERPの導入メリット
ERPを導入するメリットとして、複数の業務プロセスをひとつに統合できる点が挙げられます。決算・会計処理などで、別のシステムに再入力・加工をする手間も省くことが可能です。データに変更があった場合も自動で更新されるため、部署・部門間で発生しやすいデータの二重化による不整合も発生しにくくなります。
また、SAPと比べて比較的シンプルな構成になっており、設定・運用などが難しくありません。初期コストを抑えられるクラウド型も多数開発されており、導入のハードルが低い点もメリットです。
SAPの導入メリット
SAPのERPを導入するメリットとして、世界シェア1位ということもあり業界の標準になっている点が挙げられます。世界中の企業が導入する中で多くの実績を積んでおり、この実績が活かされて現在の安全性の高さにつながっています。
特に海外に拠点を構える企業の場合は、海外の営業所でもツールを統一できるので、システムの管理や人事異動でもトラブルが起きにくいのがメリットです。
また、業務内容に合わせて機能をカスタマイズできます。業務内容やプロセスに合わせて変更できるため、業務効率や利便性のさらなる向上が見込めます。
主な機能
次に、ERPとSAPの主な機能について解説します。
ERPの機能
ERPの主な機能は、以下の通りです。
- 人事管理
- 生産管理
- 会計管理
- 販売管理
- 営業管理
人事・給与管理では、扶養情報や通勤経路、役職情報など従業員の情報を登録・管理できます。生産管理は生産計画から仕入れ、人員配置など各工程をサポートすることが可能です。また、会計管理では財務諸表の作成などを行い、経営状況をリアルタイムで可視化できます。
SAPの機能
SAPの主な機能は、以下の通りです。
- 人事管理
- 会計管理
- ロジスティック(販売・倉庫管理)
- 生産管理
- 品質管理
- プラント保全
SAPを導入することで、ロジスティック機能により販売管理・倉庫管理が可能になります。データ入力が不要となるため、人的なミスも発生しにくいです。また、プラント保全もSAPの機能に含まれます。プラント保全では、機能場所の登録や変更、検査、整備など、工場・プラントのメンテナンスをサポート可能です。
費用
次に、ERPとSAPを導入するために必要な費用について解説します。
ERPの費用
ERPの導入費用はクラウド型とオンプレミス型で異なり、クラウド型は100万円前後、オンプレミス型は数百万円ほどかかります。クラウド型を選んだほうがコストを抑えられますが、その分ユーザーライセンスが継続的にかかってくるため注意が必要です。
SAPの費用と比べると割安な場合が多いです。SAPは機能性が高い分使いこなすには専門知識をもつ人材が必要となり、人件費も高くなります。その点、特にクラウド型のERPであれば専門知識を持っていなくても導入することは可能です。
SAPの費用
現行のSAP S/4HANAは、オンプレミス型が主流であり、開発費用に数千万円~数億円かかっているケースが多くみられます。SAPの導入範囲や導入期間、アドオン開発の量などで価格は変動してくるものの、最低でも1億円前後はかかるものと考えられます。
また、SAP導入後の保守・運用管理のために専任の担当者を用意しなくてはなりません。自社にSAPの知識を持ったエンジニアがいなければ依頼する必要があり、その分コストもかかってくるでしょう。
SAPのERPと他のERPはどちらを選べばよいのか
ここまで観点別にSAPと他のERPを比較してきましたが、結局どちらを選べばよいのか迷う方も多いはずです。そこで以下では、企業規模別・導入目的別にどちらを選ぶとよいかを紹介します。
企業規模別のおすすめ
企業規模別で考えたとき、SAPのERPは多言語・他通貨に対応していることや、商習慣・税制度なども各国に合わせて対応できることから、世界規模で商品・サービスを展開しているグローバル企業に向いています。また、SAPの現行システムはオンプレミス型である一方、他のERPはクラウド型が多く提供されています。そのため、中堅・中小企業でも導入しやすいでしょう。
導入目的別のおすすめ
導入目的で考える場合、コストを重視するなら他のERPがおすすめです。特に、クラウド型を利用することで導入時にかかる初期費用を抑えられます。独自の機能性で考えるのであればSAPのERPがおすすめです。例えば、SAPでは高度な多次元分析が行えます。
機械学習が分析をサポートし、結果に影響を与えている要因や他データとの関連性を自動的に発見します。また、分析機能を用いることで、予算を策定する際のシミュレーションや、改善に向けた施策の立案などもサポートしてくれます。
導入事例
ERPやSAPを実際に導入した企業で、どのような効果を得られたのか気になる方も多いでしょう。ここからはERPとSAPの導入事例について紹介します。
ERP:国内の事業部門向けに国産ERPを選んでコストを抑制
大手総合商社のA社は、早い段階でERPの導入を検討しており、2000年頃から本格的に導入を開始していきました。外資系のERPを採用していましたが、運用する中でシステムの複雑化や価格の上昇などが課題として浮上したのです。日本独自の商習慣に対応するために、これまではアドオンやモディフィケーションなどを活用してカバーしてきましたが、運用負荷が増大し膨大なコストと手間がかかるようになりました。
そこでA社は、国内の事業部門向けに国産ERPを複数採用し、それぞれに適した箇所で活用することを選択します。各部門に適したパッケージの採用を行った結果、部門ごとに抱えていた課題を解決しやすくなりました。また、開発が個別になるためリスクとコストを分散させることにも成功しています。
SAP:大量のトランザクション量の処理が可能に
業務用品などを数多く取り扱うB社は、業績を順調に伸ばしていく一方で、会計システムのトランザクション量が増加してシステムにかかる負荷が大きいことが課題になっていました。また、紙文書を電子データ化させることで会計伝票との紐づけられる仕組みや、予実比較の生産性を上げるための仕組みづくりが課題として挙がっていました。
これらの課題を解決するために、B社はSAPのS/4 HANAとHANA Enterprise Cloudを導入しています。
S/4 HANAを導入したことにより、大量のトランザクションを安定して処理できるようになり、システムの負荷が軽減されパフォーマンスは大幅に向上しました。さらに、売掛金消込処理の作業プロセスが単純化したことで、2時間程度かかっていた作業が10分強にまで短縮されています。
まとめ
SAPはERPに含まれるものの、他社が提供するERPとSAPには費用や機能面などに違いがあります。ERP・SAPの導入を検討する場合には、効果を最大化させるためにも管理体制について事前に検討しておきましょう。
いずれのERPを導入する場合でも、搭載された機能が自社のニーズとマッチするか、導入コストに見合った効果が期待できるかなど、客観的な意見も交えながら議論を重ねてください。
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