SOA(サービス指向アーキテクチャ)とは? 機能やメリットを紹介

soaとは

現代のシステム開発においては、複雑な要件や変化するビジネスニーズへ柔軟かつ迅速に対応することが求められています。そこで注目を集めているのが、SOA(サービス指向アーキテクチャ)という設計思想です。本記事では、システム開発の時間短縮を目指すエンジニアに向けて、SOAの概要と基本原則、メリット・デメリットを解説します。

SOAとは?

SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)とは、大規模なシステムを効率的に構築し、管理・運用するための設計手法です。システムの各機能を「サービス」という単位で分割し、それぞれのサービスを組み合わせることでひとつの大きなシステムを構築します。

「会員登録申請」や「在庫確認」などユーザー視点の作業単位で個々のシステムを切り分けるため、サービス同士の依存性は極めて低い状態にあります。また、サービス同士は連携することを前提とするため、外部から個々にアクセスできるように標準化されたインターフェイスを備えているのも特徴です。

SOAによるサービス単位の開発は、言語に関わらず相互通信できるため異なるシステム間の連携が容易であり、柔軟かつ効率的なシステム構築を可能にするでしょう。ひとつのサービスを複数のシステムで使いまわしたり、追加したりすることでシステム開発の時間短縮を実現します。

SOAとESBの違い

SOAがシステムの設計思想を指すのに対し、SOAの設計様式を実現する具体的な手法として用いられるのがESB(Enterprise Service Bus:エンタープライズサービスバス)です。ESBは多種多様なシステムの連携を可能にするミドルウェアを指します。

SOAではサービス単位で開発を進めますが、最終的には異なる言語やプラットフォームで作成されたサービス同士を連携しなければなりません。ESBにより接続されたサービス同士はデータの送受信が可能になり、データ変換やルーティングなどの操作を実行することで、システムを統合します。

SOAにおける基本原則

SOAは、個別に開発されたサービスをシームレスに連携・運用することで、システム構築に要するコストの削減が期待できます。また、業務の変更や拡張が必要になった際、容易に対応できるのもポイントです。SOAの成功に向けて押さえておきたい基本原則が5つあります。

  • 相互運用性
  • 疎結合
  • 抽象化
  • 自律性
  • コンポーザビリティ

相互運用性

SOAでは、サービス間の相互運用が重要視されます。相互運用性とは、異なるプラットフォームやプログラミング言語で実装されたサービス同士のスムーズに連携できる性能のことです。各サービスの機能と利用条件を記載した説明ドキュメントを介し、他のシステムやサービスが容易にアクセスできる仕組みになっています。

疎結合

SOAにおいて疎結合も重要な概念のひとつです。SOAの考え方に基づいたシステムを実現するには、サービス間の依存関係は極めて低い状態でなければなりません。過去のセッション情報を記憶しないステートレスなシステムは、各リクエストが自己完結型で処理されるため、システムの負荷を分散させることが可能です。

変更や修正、拡張が必要になった場合は、対象のサービスのみに絞って対応できるため、全体の機能に影響を与えることはありません。

抽象化

SOAにより構築されたシステムでは、クライアントやサービスユーザーに対してコードロジックや実装を公開する必要がありません。プログラム内部のデータや処理の方法は、外部からの影響を受けにくいカプセル化で提供されます。

ユーザーにとって不要なデータを隠し、操作を簡単にするデータの抽象化を用いることで、サービスの利用者は外部インターフェイスを通じて必要な機能を探し当て、利用できるでしょう。

カプセル化によってオブジェクトが独立して機能するため、何らかの変更が生じた際も影響する範囲を限定することが可能です。開発環境が変わったとしても、クライアントやサービスユーザーに影響がおよばない点も注目すべきポイントです。

自律性

SOAにおける自律性とは、各サービスが独立することで、その実装や実行環境に変更があっても他のサービスやクライアントに影響を与えないことを意味します。各サービスはインターフェイスを通じて相互作用するため、変更や配置、バージョンアップは個別に実行することが可能です。自律性の概念は、サービスの独立性を保持することにつながり、システム全体の柔軟性とスケーラビリティの向上に有効です。

コンポーザビリティ

コンポーザビリティとは、システムの要素を再結合してより大きなものにする能力です。SOAでは、数多くの小さなサービスが複雑に組み合わさることで、新しいビジネスプロセスを構築します。サービスの管理や再利用、リライトを容易にするために、サービスを大きくしすぎないことも重要です。

SOAを構成する4つのコンポーネント

インターネット技術が普及した昨今では、構造が異なるアプリケーションを相互運用することも一般的になってきました。ビジネス視点でのアプローチを重視したSOAは、今後、ビジネスの促進に大きく貢献するとして、多くのエンジニアに注目されています。

SOAの設計思想を実現する主要なコンポーネントは以下の4つです。

  • サービス
  • サービスプロバイダー
  • サービスコンシューマー
  • サービスレジストリ

サービス

サービスは、SOAの基本的な構成要素であり、特定の機能を提供するためのモジュールです。各サービスは、組織内でのみ利用できるプライベート形式、またはインターネットを介してアクセスできるパブリック形式に設定できます。サービスごとに実装・契約・インターフェイスという3つの主要な機能を備えており、サービスにおける実装は特定の機能を実行するためのロジックやコード、契約はサービスの利用条件や機能の定義、インターフェイスは他のサービスやユーザーがサービスを利用するための手段に該当します。

サービスプロバイダー

SOAにおけるサービスプロバイダーは、ユーザーが利用するサービスを作成・維持・提供する上で中心的な役割となる要素です。独自のサービスを開発するほか、サードパーティーのベンダーからサービスを購入する方法があります。サービスプロバイダーは、サービスの品質と信頼性を確保し、ユーザーが必要とする機能を安定して提供する責任があります。

サービスコンシューマー

サービスが独立して機能するSOAでは、コンシューマーが必要とする情報を入力してサービスへ送信し、特定のサービスを実行するようリクエストします。サービスコンシューマーは、サービスを利用するコンポーネントであり、システムの全体とアプリケーション、または他のサービスが含まれています。

サービスコンシューマーは、サービス契約に基づいて必要なサービスを利用しますが、機能を利用する上でシステムの実装に関する詳細な情報を必要としません。プロバイダーとコンシューマーは異なる部門や組織、業界に属するケースがあります。

サービスレジストリ

サービスレジストリ(サービスリポジトリ)は、システムに必要な機能を実装するアプリケーションレベルの通信で、使用するデータ構造を格納するためのデータベースです。今後SOAの考えに基づいたシステム構築が発展し、大規模化する上で、サービスレジストリの技術は欠かせないものと考えられています。

サービスレジストリには、利用可能な全てのサービスの情報とサービスプロバイダーから提供される説明ドキュメントが登録・保存されます。ドキュメントにはサービスの機能や利用方法だけでなく、通信方法に関する情報も含まれており、コンシューマーはサービスレジストリを利用して必要なサービスを見つけ出すことが可能です。

SOAに基づいてシステムを構築するメリット

SOAは、ビジネスニーズへ迅速に対応できるシステムの構築・運用を可能にします。

  • 市場に投入するまでの時間を短縮できる
  • 柔軟性の高いシステムを開発できる
  • 変更にも対応しやすい
  • メンテナンスを効率的に行える

市場に投入するまでの時間を短縮できる

SOAでは、ビジネスプロセス単位で切り出したサービスを組み合わせてシステムを構築します。そのため、新たなコーディングを最小限に抑えられるのがメリットです。システム開発にかかる時間や労力を大幅に軽減し、市場投入までの時間短縮に有用です。

柔軟性の高いシステムを開発できる

サービス単位でシステムを開発したのちにアプリケーションを組み立てるため、運用後に修正・変更が必要になった際も、サービス単位に絞って対応することが可能です。多様な業務で使用しているサービスは再利用できるため、新たなシステムを構築したり開発したりするときにゼロから開発する必要はありません。

このように、手間と労力を削減しながら、柔軟性の高いシステムを素早く構築できます。多様な選択肢を取り入れながら柔軟性の高いシステムを開発できるため、急速に変化するビジネスニーズに適応しやすくなる点もSOAの強みです。

変更にも対応しやすい

SOAでは、ビジネスプロセスごとにサービスを作成します。そのため、システム全体に対する影響を最小限に抑えて変更することも可能です。サービス同士の依存性が低いため、一部のサービスに変更があったとしても、他のサービスに影響が出ないよう、切り離したり差し替えたりして迅速かつ安全に対応できます。

メンテナンスを効率的に行える

SOAはアプリケーションの変更や改修をサービス単位で実行するため、メンテナンスを行う際も必要な一部に絞って実行することが可能です。これにより、メンテナンス作業が業務に与える影響を最小限に抑えられるでしょう。また、データフォーマットやデータ連携方式の変更は連携基盤が吸収するため、システム全体の安定性が保持されるのも特筆すべきポイントです。

適応性の向上が期待できる

SOAを採用することで、アプリケーションの実装を気にせずシステム同士を連携できるようになります。また、新しい技術やサービスを部分的に取り入れることも可能なので、常に最新の技術環境を維持できるのもメリットです。

SOAのデメリット

SOAには多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。

まず、設計・運用の複雑化が挙げられます。各サービスの役割や責任範囲は、正確に定義しなければなりません。そのため、設計段階での労力が増加します。また、複数のサービスを連携して運用するため、サービスの監視や問題発生時の迅速な対応も課題です。

サービスの提供者や利用者が増えるにしたがい、セキュリティリスクも高くなるため注意が必要です。適切なセキュリティ対策を講じられなかった場合、不正アクセスやデータ漏洩のリスクが増大する可能性があります。さらに、サービスが多くのリソースを共有・調整するため、システムのスケーラビリティに制限が生じることも想定されます。

ESBを使用する際は、ESBが単一障害点となるリスクも考えなければなりません。サーバ停止時に、待機システムへ自動で切り替えるフェイルオーバー機能を導入するなど、システムが継続して稼働するための冗長化が求められます。

SOA導入の具体例

SOAは、さまざまな業界で導入されており、その柔軟性と効率性を活かして大きな成果を挙げています。

自動車産業におけるケース

自動車産業ではSDVの登場により、SOAが広く普及しました。SDVは信号ベースのアプリケーションとサービス指向アプリケーションの両方を新しいEEアーキテクチャに統合し、車両コンピュータやゾーンコントローラーを備えています。

開発者はシステムコンポーザーとSimulinkでSOAをモデル化してシミュレーションを行い、C++の量産コードで生成されたモジュラーサービスをデバイスやクラウド上で展開することが可能です。

次世代自動車向けのプラットフォームAUTOSAR(オートザー)は「Adaptive」「Classic」といった2つのアプリケーションを内包していますが、この2つのうちAdaptiveプラットフォームはSOAの採用を最大の特徴としています。AdaptiveはSOA方法論を取り入れた標準規格として、アプリケーションのモデル化およびシミュレーションの検証に広く使用されています。

航空宇宙・防衛産業におけるケース

SOAの概念は航空宇宙・防衛産業において、MOSA標準化イニシアチブの一部であるFACE™標準で採用されています。SimulinkとDDS Blocksetを利用することで、FACE™規格のアプリケーションのモデル化とシミュレーション、DDS TSS用のFACE IDLのインポート、FACE TSS通信のシミュレーション、そしてFACEアプリケーション用のC++量産コードの生成と展開が可能です。

このように、SOAは航空宇宙および防衛産業においても、システムの柔軟性と効率性を高める目的で活用されています。

まとめ

SOAとは、サービス単位で開発したシステムの連携によりひとつのシステムを構築する設計思想です。SOAの原則に基づいた開発は、システムの開発・運用の柔軟性や効率性、適応性を高めることに結びつきます。

SOAには、システムが複雑化するなどのデメリットがある一方で、市場投入までの時間短縮やメンテナンスの効率化など、企業に数多くのメリットをもたらします。SOA関連の案件をお探しの方は、ハイスキル人材向けサービス「FLEXY」を、ぜひご活用ください。

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