PLMシステムとは?製造業の導入メリットや失敗例をわかりやすく解説
製造業の生産性・競争力を向上させるために、今改めて「PLMシステム」に注目が集まっています。QCDの最適化などに有用で、製品ライフサイクル全体の最適化、生産と市場投入までの迅速化にもつながります。本記事では、PLMシステムの概要をはじめ、メリット、導入・運用にあたっての注意点などを詳しく解説します。
PLMシステムとは?
「PLM」とは、ある製品個体のライフサイクル(設計から原材料調達、製造、販売、保守、廃棄・回収、再資源化まで)と、製品モデルのライフサイクル(企画・開発から、廃盤・サポート終了まで)における各段階のデータを一元管理することで、全体最適化をめざす手法です。Product Lifecycle Managementの略称で、日本語では製品ライフサイクル管理、製品ライフサイクルマネジメント、プロダクトライフサイクルマネジメントとも呼ばれます。
そして「PLMシステム」とは、PLMを実践するために有効なシステムです。PLMがPLMシステムそのものを指す場合もあります。
製造業におけるQCDの考え方
「QCD」は、「quality(品質)、cost(コスト)、deliver(納期)」という3つの要素を指します。各要素はお互いに強い関連性を持っているため、「品質を向上させるとコストも増える」など、ある要素を優先させると、また別の要素を犠牲にすることがあります。そのため、常に各要素に優先順位を付けながら、全体的なバランスを取らなければいけません。特に昨今は「高品質な製品を低コストで製造し、市場へタイムリーに投入する」ことの重要性も高まっているので、これまでよりもQCDの最適化を図ることが難しくなっています。
PLMシステムを活用すると、製品ライフサイクルの全段階を統合的に管理できるので、QCDの管理をしやすくなるのがメリットです。その結果、市場投入までのリードタイムの短縮、製造数量の最適化、多品種少量化などの実現につながります。
PDMとの違い
PLMシステムと似たものに「PDMシステム」があります。PDMはProduct Data Managementの略称で、日本語では製品データマネジメントと呼ばれます。このPDMを支えるのが、PDMシステムです。
PDMシステムはPLMシステムの前身で、CADデータや設計部品表データ(BOM)などの設計開発情報を管理し、設計業務を効率化させるために使われます。特にエンジニアリングチェーン(設計部門を中心とした業務プロセス)を最適化するのに有効です。1980~1990年代頃から自動車業・製造業などを中心に広まりました。
このPDMシステムが発展したものが、2000年代に登場したPLMシステムです。PDMシステムで扱えるのは設計・開発段階のデータですが、PLMシステムでは、PDMシステムの領域も含めた製品ライフサイクル全般という、広範なデータを一元管理できます。
PLMシステムの目的と必要性
PLMシステムが注目される理由として、QCDの最適化の他に以下のものが挙げられます。
時代の変化に合わせて柔軟に対応する力が求められる
テクノロジーの発展、地政学的な変化、消費者の好み・行動の多様化、持続可能性確保の取り組み強化、感染症の蔓延、それらに伴う半導体・エネルギー不足など、近年ビジネスを取り巻く環境が激しく変化しています。それぞれの要因が相互作用を起こすケースもあるため、将来を予測することは非常に困難になりました。
そのため、どのようなビジネスも、変化に対して柔軟・継続的に、軌道修正をすることが求められています。製品のライフサイクルが短期化している製造業では、PLMシステムを導入し、生産から市場投入を迅速化させることも有効です。それによって、消費者・市場のニーズに素早く応えられます。
素早く需要を把握し、迅速に製品へ反映させる必要がある
近年では、国内市場だけでなくグローバル市場での競争も激しくなっています。このような状況の中、同じ東アジアの国と比較して、日本企業はグローバル競争力が低下傾向にあるため、PLMシステムなどのテクノロジーの利活用が欠かせません。
PLMシステムを使えば、リアルタイムで情報を共有し、異なる部門間(営業部門と設計部門など)や地域間での協働もしやすくなります。それによって製品開発から市場投入のプロセスが加速化するため、競合優位性の獲得につながります。
特に市場の成長期・拡大期においては、市場・消費者のニーズを速やかに反映させる仕組みがあることは、大きな強みとなるでしょう。
PLMの主な機能
PLMシステムに含まれる機能は、一般的に次のようなものです。PDMシステムから発展してきた経緯から、エンジニアリングチェーンを最適化する機能に主軸が置かれています。「(※)」が、PDMシステムにも備わっている機能の例です。
- ポートフォリオ管理
- プロジェクト管理
- 品質管理
- 製品設計(※)
- CADデータ管理(※)
- BOMデータ管理(※)
- スケジュール管理
- 原価管理
- 取引先情報管理
PLMシステムを導入するメリット
PLMシステムを全社的に活用すると、QCDの最適化だけでなく、次のようなメリットが得られます。
業務の効率化が図れる
PLMシステム上で製品に関するデータを一元管理すると、各部門間のデータ共有・連携が容易になります。各部門が同じデータを使用することで、重複・不整合が発生しにくくなることもメリットです。過去データの検索性も高めれば、既存の設計資産を生かして新たな製品をスピーディに市場投入でき、継続的な競争力の強化につながります。
製品の品質を維持・向上できる
一般的にPLMシステムは、品質テスト(性能テスト・耐久テストなど)自体を行うわけではありません。しかし、テストの項目・結果なども含めた製品ライフサイクル全体のデータを一元管理することで、製品のトレーサビリティを確保できます。そのため、不具合などの原因も特定しやすくなります。同じデータを各部門が利用するため、設計ミスや不具合の早期発見にもつながるでしょう。
開発・製造にかかるコストを削減できる
PLMシステムを活用すると、業務フローの「ムリ・ムラ・ムダ」を削減し、全体の業務フローと人材配置を最適化できます。それによって、コスト削減と利益率の向上をめざせます。手戻り・リコードの削減にもつながるでしょう。各部門が同じデータを使用するため、発注の重複なども避けられます。
顧客からの信頼性を獲得できる
PLMシステムで製品ライフサイクルに関わるデータを一元管理することで、データの可視化・分析を行いやすくなります。トレーサビリティも向上するため、不具合のある製品の追跡も容易です。原因の特定と対策も、よりスムーズに行えます。顧客が抱いているマイナスの感情を素早く誠実に解消することで、信頼性とロイヤリティの向上も期待できます。
PLMシステムを導入する際に失敗してしまう理由
適切に利用することで、PLMシステムは真価を発揮します。しかし、次のような場合は利活用ができず、コストだけが膨らむ可能性があるため注意してください。
業務フローを変えずに導入した
全体的なグランドデザインと戦略を立てないままPLMシステムを導入すると、各部門で個別最適化され、将来的にサイロ化する可能性があります。そうなると、かえって各部門が分断されかねません。
製品ライフサイクル全体のデータを利活用するためには、組織体制と各部門の業務フロー、サプライチェーンまで網羅的に考慮してPLMシステムを構築しましょう。もしくは、既存のPLMシステムに合わせて各部門の体制と業務フローを最適化する必要があります。その際は、ライセンス料なども考慮しましょう。
既存システムと連携できなかった
製品ライフサイクルに関するデータが複数の既存システム上に散らばっている場合、PLMシステム上で集約させる必要があります。既存システムと連携が取れていないと、データの一貫性と正確性が失われ、PLMシステムの利活用が進みません。
PLMシステムへ既存システムとデータを円滑にマイグレーションさせるためにも、よく計画を立てる必要があります。
コスト重視で選定したことで自社業務と相性が悪くなった
PLMシステムを選ぶとき、価格を重視する企業は多いです。しかし、価格の安さだけに捉われて自社の要件に合っていないPLMシステムを選定すると、データの利活用が進まず、本末転倒な結果に終わります。長期的なROI(コスト対効果)を考慮しながら、企業戦略との整合性、導入する目的、ニーズ、目標などを踏まえて、機能と使いやすさを重視しながら選定しましょう。
PLMシステムを導入する際に注意すべきポイント
次のポイントに注意すると、PLMシステムをスムーズに導入・運用しやすくなります。
まずはスモールスタートで始める
リスク管理などの観点から、まずはスモールスタートで、限られた範囲でPLMシステムを試すのが一般的です。一斉にPLMシステムを導入すると、想定外の問題が発生して混乱することがあります。そのため、効果を評価し、システムの微調整をしながら、段階的に適用範囲を広げていきましょう。そうすることで、従業員のPLMシステムに対する理解も進みます。その際は、長期的な戦略とビジネス目標、そして「各製品のライフサイクルに関する情報を一元的に管理し、企業価値向上のために役立てる」という目的を常に頭にとどめておきましょう。
システムを導入する前に課題を洗い出す
PLMシステムを選定・導入する前には、現状の組織内およびサプライチェーンに存在する課題を徹底的に洗い出しましょう。そして関係者のニーズを収集した上で、どのような機能が必要かを確かめます。その際も長期的な戦略とビジネス目標、企業のセキュリティ要件とも照らし合わせ、整合性を取ることが大切です。今後の運用の指標にもなるため、PLMシステムがどのようにビジネス目標に貢献するかを明確化しましょう。
既存システムと連携するか確認する
PLMシステムを導入するための技術的な準備も欠かせません。現行の業務フローおよびシステムと、どのように適合するかを確かめましょう。特に基幹システムや、PLMシステムの得意分野であるBOMと連携できるかは、必ず確かめてください。必要なデータが一元管理できなければ、PLMシステムによる恩恵は十分に得られません。
全社的な導入に向けて取り組む
PLMシステムを活用するには、導入の前段階からの、全社的な取り組みが欠かせません。まずは全体戦略を立てた上で、PLMシステムを導入する目的、目標、期待するゴール、対象範囲、機能の優先順位、セキュリティ上の要件などを決めましょう。状況によっては、現行の業務プロセス・フローを再設計することも必要です。
設計・開発部門をはじめ、システム部門などの各部門も、「PLMシステムを活用して全体的なプロセスの最適化を図る」という意識を持って、主体的に取り組めるような環境づくりも大切です。各部門がPLMシステムを使いこなせるように、トレーニング体制を設けることも欠かせません。
PLMシステムに詳しい人材へ依頼する
コンサルタント、SIer、パッケージ提供会社などに依頼する場合は、操作性・既存システムとの連携のしやすさなど、「何を優先するのか」を明確にしておきましょう。そこが曖昧だと、選定の時間的コストが増えたり、過不足あるPLMシステムを導入して持て余してしまったりする恐れがあります。
自社環境を客観的に見てもらいつつ、他社事例や要件に合ったパッケージを提示してもらいながら、最も適したPLMシステムを選定しましょう。
まとめ
主に製造業で採用されているPLMシステムは、CADデータ・BOMデータをはじめ、これまで複数のシステム上で管理していた製品ライフサイクル全体のデータを一元管理できるシステムです。
このPLMシステムを横断的に活用すると、企画・設計から廃棄・再資源化まで、全工程の最適化につながります。生産性の向上、市場投入の迅速化、コスト削減、競争優位性・企業価値の強化などが期待できるのもメリットです。
このPLMシステムに関する経験を積むには、「FLEXY(フレキシー)」などのプロ人材サービスを活用してPLM関連の案件に参画するのが有効です。フレキシブルな働き方で、幅広い案件に携われるのが魅力です。