ETLツールとは?ITでの意味や機能、メリットをわかりやすく解説
データ分析の効率化を図るためには、データのエラーやノイズを取り除き、フォーマットが統一された構造化データに整形するプロセスが求められます。そこで重要な役割を担うETLツールの定義や、ETL処理の基礎知識、ETLツールの必要性とメリットを紹介します。データ分析業務について調べている方はぜひご覧ください。
目次
ETLとは?
ETLとは、「Extract(抽出)」「Transform(変換・加工)」「Load(書き出し)」の略称で、組織内に点在するデータを抽出し、分析に適したフォーマットに変換・加工して、データウェアハウスに書き出す一連の処理を意味します。
データ分析は基本的に、「収集」→「蓄積」→「抽出」→「変換」→「可視化」→「分析」という工程をたどるのが一般的です。ERPやCRMなどに収集・蓄積されたデータは、欠損値や外れ値、重複データなどを含む場合が多く、そのままではデータ分析に多大な工数を要します。
そのため、必要なデータを抽出して統一された構造化データに変換・加工する工程が必要です。そして、構造化データをデータウェアハウスへ書き出し、BIツールで可視化したデータセットを機械学習や統計学を用いて分析します。このデータ分析における抽出・変換・加工・書き出しのプロセスを効率化・自動化するシステムが、ETLツールです。
従来、ETL処理はスクラッチ開発の独自システムで実行されていましたが、1990年代にETLツールが市場に普及し、現在では多くの企業がデータ分析の工程にETLツールを採用しています。
ETLと似ている用語について
ETLと混同されがちな用語として、「EAI」と「ELT」が挙げられます。ここでは、それぞれの意味やETLとの違いについて解説します。
EAIとの違い
「EAI(Enterprise Application Integration)」とは、運用している複数のアプリケーションを連携し、システム間のデータ共有を統合的に管理する仕組みです。現代は業務システムやデータのサイロ化が加速しており、部門横断的な情報共有が困難になりつつあります。例えば、購買管理システムと物流管理システムを連携できれば、購買部門の入荷依頼データを物流部門が直接的に参照できます。それにより、購買部門が入荷依頼書の帳票を出力し、物流部門に送出するといった業務の削減が可能です。
ETLはデータを整形する一連の仕組みであるのに対し、EAIはシステム間のデータ連携を効率化する仕組みである点が主な違いです。
ELTとの違い
「ELT」とは、「Extract(抽出)」「Load(書き出し)」「Transform(変換・加工)」の略称で、ETLと同じくデータを変換・加工する一連の処理を指します。ETLはデータを抽出して変換・加工した後にデータウェアハウスへ送出するのに対し、ELTは抽出したデータをデータウェアハウスに送出してから、変換・加工を実行します。
ELTはデータベース上で直接データを変換・加工するため、基本的にETLツールのような専用のソリューションは不要です。ただし、ELT処理を実行するためには、相応の容量や処理能力をもつデータウェアハウスと、構造化クエリ言語のSQLに関する一定以上のスキルが必要とされます。
ETLツールの基本的な機能
ここでは、ETLツールの基本機能である「Extract(抽出)」「Transform(変換・加工)」「Load(書き出し)」について解説します。
抽出
ETL処理における抽出とは、組織内に点在しているシステムから、目的に応じたデータを取り出して集約する工程です。対象となるデータとしては、ERPに保管されている基幹業務のデータやCRMの顧客情報、Excelのような表計算ソフトウェアで管理しているXML形式のファイル、データレイクに保存されている非構造化データなどが挙げられます。この工程では、データ分析を実行する目的の明確化が重要な課題です。
変換・加工
ETL処理の変換・加工とは、抽出したデータを整形する工程です。多くの場合、複数のシステムから抽出されたデータはファイル形式や粒度が異なり、欠損値や外れ値、偏り、表記ゆれなどを含んでいます。そのままではデータ分析に多大な工数を要し、データの整合性や正確性も確保できません。そのため、クレンジングやフィルタリング、重複排除、正規化などの処理でデータを整形して一貫性を確保します。
書き出し
ETL処理における書き出しとは、整形された構造化データをデータウェアハウスに送出する工程です。一般的なデータウェアハウスにはデータのインポート機能が搭載されており、SQL命令による送出処理よりも高速にデータを取り込めます。その後、大規模なデータ分析や、特定のビジネス要件に対応するデータ分析を実行する場合は、目的に応じた構造化データを個別に保管するデータマートを構築します。
ETLツールが必要とされている理由
ETLツールの重要性が高まっている要因として挙げられるのが、以下の3点です。
- コア業務に対するリソースの集中
- ヒューマンエラーの防止
- 人材の採用・育成に関するコストの削減
コア業務に人的リソースを割けるため
ETLツールが必要とされる背景にあるのは、コア業務に対するリソースの集中です。大量のデータセットを手動でETL処理する場合、データソースの抽出やフォーマットの統一、欠損値を補完する作業などに多大なリソースを割かなくてはなりません。ETLツールを導入することでETL処理を効率化・自動化できるため、データ分析における業務負荷を軽減し、企業価値の向上に直結するコア業務に人的資源を集中できます。
ヒューマンエラーを回避できるため
ETLツールの重要な役割のひとつは、ヒューマンエラーの防止です。ETL処理の手動操作は担当者による手順の違いや変換ルールの適用ミスなどにより、人為的なエラーが発生する可能性はあります。それによってデータの重複や欠損が生じ、データ分析の整合性と正確性が損なわれるリスクが懸念材料です。ETLツールは、ETL処理を定義されたルールに基づいて実行するため、ヒューマンエラーを最小限に抑えられます。
プログラマーやエンジニアを確保せずに済むため
ETLツールが求められる理由のひとつは、人材の採用・育成に関するコストの削減です。ETL処理を手動で実行する場合、データベースを操作するSQLに関する高度な知見が必要となる他、データの取り込みや欠損値の処理、重複データの削除などに関するプログラミングの知識も求められます。ETLツールの導入によって一連のETL処理を効率化・自動化できれば、プログラマーやエンジニアの採用・育成コストを削減できるでしょう。
ETLツールの導入によって得られるメリット
ETLツールを導入する代表的なメリットは、以下の3点です。
- データマネジメントの合理化
- 開発環境の整備に伴う業務の効率化
- データ分析に関するコストの削減
データを管理しやすくなる
ETLツールの導入で得られるメリットのひとつは、データマネジメントの合理化です。近年はビッグデータ分析の重要性が高まっており、形式を問わず大量のデータの保管が可能なデータレイクを導入する企業が増加傾向にあります。しかし、データレイクは大容量かつ安価なストレージに生データを貯蔵できるものの、無計画にデータを取り込むことでデータスワンプに陥るケースが少なくありません。
ETLツールは、データレイクに保管されている大量の生データから必要なデータセットを抽出し、体系的に管理できる点が大きなメリットです。それによって、データの集計や管理の手間を削減できるため、データ分析の効率化が期待できます。
開発環境が整い、業務効率向上につながる
ETLツールを導入するメリットは、開発環境の整備に伴う業務の効率化です。ETLツールを導入することで、データソースからデータを取り出して整形し、データウェアハウスで体系的に管理するという一連の工程を効率化できます。それにより、大量のデータを高速かつ効率的に処理できる開発環境の整備に寄与し、コア業務にリソースを集中できるため、業務効率化とそれに伴う労働生産性の向上が期待できます。
また、ETL処理の自動化によって人為的なエラーが削減され、より精度の高いデータ分析ができるようになります。これにより、勘や経験などの曖昧な要素に依存しない、データドリブンな経営基盤を構築できる点も大きなメリットです。
コストを削減できる
データ分析に関するコストの削減も、ETLツールの導入メリットのひとつです。先述したように、データ分析は「収集」→「蓄積」→「抽出」→「変換」→「可視化」→「分析」という工程が必要であり、各フェーズで多大な工数が発生します。ETLツールでデータの抽出・変換・加工・書き出しの工数を軽減できれば、データ分析の一連のプロセスにおける人的資源と物的資源、そして資金の投入量を削減できます。
もちろん、ETLツールの導入時は初期費用が発生し、業務フローの見直しや再設計なども必要です。しかし、ETL処理に要するリソースが削減されるため、中長期的な視点で見れば大幅なコスト削減が期待できます。
ETLツールの選び方
近年、ETLツールの市場規模は拡大傾向にあり、さまざまなサービス事業者がETLツールを販売しています。ETLツールを選定する際は、「操作性はどうか」「データに対応しているか」「費用対効果はどうか」という3つのポイントを押さえることが重要です。
操作性はどうか
ETLツールを導入する際は、操作性の確認が必要です。パッケージ型のETLツールは、原則として提供される機能の範囲でしかカスタマイズに対応できないため、フルスクラッチ型と比較すると柔軟性に劣ります。特にシステムの操作性や視認性、応答性、他のアプリケーションとの連携性など、UIデザインのカスタマイズは基本的に対応できません。操作性や視認性はデータ分析の効率化を左右する要素といえるため、体験版を利用して導入前にUIを確認する必要があります。
データに対応しているか
ETLツールを比較・検討する場合、データ連携のアダプタやコネクタ、データの処理能力などが要件を満たせるかを確認する工程が必要です。製品によっては、クラウド環境のデータソースやデータウェアハウスへの直接的な連携が制限されている場合があります。また、ETL処理の工程で取り扱えるデータの総量も、製品によって異なる点に要注意です。そのためETLツールの導入にあたっては、対応できるデータの形式や接続先、処理可能なデータ量などを調査しなくてはなりません。
費用対効果はどうか
ETLツールを選定する際は、費用対効果を検証する工程が必要です。例えば小規模事業者や中小企業の場合、大容量かつ高速なETL処理が可能な製品は、オーバースペックになる可能性があります。大規模なデータ分析が必要な場合は、コストだけでなく機能性や連携性、セキュリティ機能などを考慮し、自社の要件を満たせるかどうかを検討しなくてはなりません。導入時の初期費用と、システムの保守・運用管理のコストを算出し、中長期的な費用対効果を検証することが大切です。
まとめ
ETLツールは、データ分析における「抽出」「変換・加工」「書き出し」の工程を効率化・自動化するシステムです。ETLツールを導入する主なメリットとして、コア業務へのリソース集中やヒューマンエラーの回避、人材の採用・育成に関するコストの削減などが挙げられます。
データ分析の重要性が高まる現代市場では、ETLツールの知見を有するエンジニアを探している企業が少なくありません。FLEXY(フレキシー)では、ETL処理の上流設計を担当する案件や、ETLツールを活用するSAP関連の案件などを取り扱っていますので、ぜひご覧ください。