日本発、ブロックチェーン社会実装でグローバルに挑戦するスタートアップが考える戦略とは?

2020年9月3日に行われたCTOmeetupのテーマはブロックチェーン。今回はブロックチェーンに携わるスタートアップ企業を数多く支援しているMicrosoft社が主催者となり開催されました。

ゲストに招いたのは、スタートアップ企業向けのプログラムMicrosoft for Startupsを利用しており、日本発の企業として海外で高く評価されている2社。先端のブロックチェーン事情とグローバルで勝ち抜くための戦略について、たっぷり語っていただきました。

目次

日本発ブロックチェーン社会実装でグローバルに挑戦するスタートアップが考える戦略とは?

Azure×Blockchain Startups パネラー紹介

渡辺創太さん
<パネラー>ステイクテクノロジーズ株式会社 代表取締役 渡辺創太さん
 
慶應義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国、アメリカでインターンシップ活動を経験後、2018年シリコンバレーのブロックチェーンスタートアップChronicledに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経てStake Technologiesを創業。
aggreさん
<パネラー>フレームダブルオー株式会社  CTO aggreさん
OSS やコモンライセンスのコンテンツなどのOpen assetsを収益化して、クリエイティブな活動のサステナビリティを実現する”Dev Protocol”を作っています。行動分析ベンチャーにてフロントエンド開発とUI/UXデザイン、ウェブメディアのテックリードを経てFRAME00にジョイン。Web Platform Study Group(旧 Polymer Japan) などOSSコミュニティも運営しています。OSSとウェブとブロックチェーンとあとアニメが大好きです。
廣瀬一海さん
<モデレータ>日本マイクロソフト Azure Business Group Developer Marketing Div. Product Marketing Manager 廣瀬一海さん
愛称「デプロイ王子」 / 元 Microsoft MVP (Azure) でした。​いわゆる何でも屋、インフラもプログラミングも大抵の事はやってきました。​現在は、主にエンタープライズ企業のお客様を中心に、Microsoft Azureに関する技術支援を行っています。​普段は、お客様とAzureの使い方について設計や検証を一緒に行う活動の傍ら、コミュニティやセミナーの登壇、書籍やWebメディアへの執筆活動なども行っています。

Microsoft for Startupとは?

技術とビジネスの両面からスタートアップ企業をサポート

主催者:今回は最初にMicrosoft for Startups(以下MS4SU)についてご説明の上、パネルディスカッションを進めていただければと思います。MS4SUはグローバルで展開されているスタートアップ企業向けのプログラムです。日本に展開して2年ほどの歴史があり、私を含め6名のメンバーで運営しています。

パッケージはさまざまご用意しているのですが、一番の目玉はAzureの無償利用枠です。年間で250万円相当、2年間で1200万円相当の利用枠をお渡しさせていただいています。ほかにもGitHub EnterpriseやVisual Studio Enterpriseなど、さまざまなMicrosoft製品を用途に応じて使うことができます。技術のほかにマーケティングなどをはじめとしたビジネス支援も行い、スタートアップ企業が成長するために必要な要素を提供させていただいています。

現在数多くのタートアップ企業様と一緒にビジネスを進めており、今回ご登壇いただいているステイクテクノロジーズ様及びフレームダブルオー様にも当社をご利用いただいています。

MS4SUにご興味のある方は、ぜひこちらのURLからお問い合わせください。

登壇者の紹介

2015年からブロックチェーンの理解者として支援・啓蒙活動に従事

日本マイクロソフト Product Marketing Manager 廣瀬一海さん(以下、廣瀬):日本マイクロソフトの廣瀬と申します。デプロイ王子と呼ばれていますが、インフラもプログラミングもなんでもやる30年選手です。以前はお客様のコンサルティングやエンタープライズ企業のAzureに関する技術設計の相談を受けていました。2015年からはブロックチェーンも扱いだし、日本におけるブロックチェーンの理解者となるべく現在まで担当しています。

例えば大手企業の方であっても、ブロックチェーンをどんなふうに初めたらいいのか、そもそもどう利用すればいいのかがわからないケースは多々あります。ブロックチェーンは仮想通貨だけでなくトークンエコノミーも大事な部分ですし、もちろんそれ以外の使い道もあるということを啓蒙し続けてきました。

現在までに国内外でさまざまなブロックチェーンの運用例が登場してきおり、僕自身も設計に入りながら一緒にプロジェクトを進めてきました。2015年の初期は、スタートアップの中でもブロックチェーンそのもののテクノロジーホルダーとご一緒することが多かったですね。例えばrippleやr3、ETHEREUM、Quorumなどともお付き合いがあります。現在までで70社ほどの企業・団体と一緒にビジネスを行っている状況です。

ギャビン・ウッド氏からも注目されるプロダクト「Plasm Network」を開発

ステイクテクノロジーズ株式会社 代表取締役 渡辺創太さん(以下、渡辺):ステイクテクノロジーズの渡辺と申します。当社は日本発の企業として、世界の一線でブロックチェーン業界に関わっていくという思いで僕が2年前に立ち上げた会社です。事業としては主にブロックチェーンのシステム開発や技術コンサル、研修を行っています。

MS4SUには3ヶ月ほど前にお誘いを受けて、現在も支援いただいている形です。

自社で開発したのはPlasm Networkというプロダクトで、これはイーサリアムやビットコインと同じ分類のレイヤー1ブロックチェーンです。Plasm Networkの上に決済の基盤やトレーサビリティのシステムを開発したこともあります。

Plasmの役割についても簡単にご説明します。パブリックブロックチェーンは非常に高価で、トランザクションに10ドル、高いときは30ドルかかることがあります。皮肉なことに銀行より高い値段です。また、ブロックチェーンを上での「ファイナリティ問題」と言われるものも大きな問題です。送ったトランザクションを承認するまでに7時間ほどかかることもあります。これはアナロジーを用いると日本国民全員が日本銀行で取り引きをしているからです。Plasmではブロックチェーンの中に地方銀行や民間銀行のような存在をセカンドレイヤーとして作っていこうとしています。

世界的なプレゼンスを今後一層高めていこうと思いますが、現在、UC Berkeleyや中国のアクセラレーションプログラムに参加したり、Polkadotの創業者であるギャビン・ウッド氏を含むメンバーとオープンソースの活動の中で連携しています。また、彼が中心となって設立したParity Technologiesというブロックチェーン企業と、日本企業として唯一提携もしています。グローバルという視点での成果に言及すると、Web3 Foundationから5度の助成金を得たこともあります。これは世界最多の数字なので、エコシステムの中でもかなり存在感が出ているのではと感じています。今後も海外企業としっかり連携をしながら、グローバルにおけるプレゼンスを高めていきたいと思っています。

「Dev Protocol」でオープンソースの開発者が持続的に支援される世界を目指す

フレームダブルオー株式会社 CTO aggreさん(以下、aggre):フレームダブルオーでCTOを務めるaggreと申します。当社はDev Protocolというオープンソースミドルウェアを開発しています。これはイーサリアム上で展開するプロトコルで、「すべての活動を公平に評価し、ステーキングによって支援を持続可能にする」という目的を持っています。

実はオープンソースは規模を問わず全体の83%が1年以内に停滞しているという統計が取れていて、誰もが価値を認めているものであっても、開発する経済的な見返りが無いのが大きな課題となっています。そんな状況の中で、Dev Protocolは開発者のみならず「オープンソースを応援する人」にとっても利益になる仕組みを作り、全ての価値あるプロジェクトに対して経済的な評価を得られるようにするものです。

今までは支援者がクリエイターに対してドネーションしたり、クラウドファンディングに参加するという形でお金を渡すのが一般的でしたが、これでは1回限りのトランザクションで終わってしまいます。それがDev Protocolを用いると、支援者がクリエイターに対してステーキングする形になります。支援者はステーキングリワードを得るのですが、クリエイターもその一部を受け取ることができるという仕組みです。ステーキングされている間、クリエイターは持続的に支援を受けられます。支援者もステーキング報酬を受け取っている間は元本保証されているので、気が変わったらステーキングを一旦解除して別のプロジェクトを応援するといったことも可能です。

Dev Protocolを単一のDappではなくミドルウェアとしているのは、ユースケースを限定していないからです。ユーザーが自由に収益化したい対象を定義して、Dev Protocol上で使用できます。

現在Dev Protocol参加済みのオープンソースは1500件ほどあり、ダウンロード数は月間で84億にも達しています。MVP時代の実績ですが、約700万円の収益化も実現しました。その金額は、Devトークンの価値向上に伴い現在15億円にまで成長しています。さらに本日、Dev ProtocolはGitHub連携を発表し、GitHubプロジェクトの収益化をスタートしました。GitHubプロジェクトにステーキングして、開発者を応援しながらお金を稼ぐことが出来るようになりました。

また、我々は今後Khaosという独自のオラクルソリューションを開発予定です。メインネット上にあるOracleソリューションはパブリックな情報を取り扱うためのものが多いのですが、Khaosはシークレットトークンを伴うような、秘匿すべき情報をオラクルするためのものです。

例えばGitHubのスター数を取得したいと思ったらGitHubのトークンが必要になりますが、これは秘匿すべき情報なので、オンチェーンでトランザクションに含めるとまずいことになります。ここでKhaosを使うと、シークレットトークンを隠蔽したままオラクルすることができるというわけです。今はGitHubとの連携を進めていますが、いずれはYouTubeやSpotifyなどに対するトークナイゼーションも我々が公式にサポートしていきたいと思っています。

ブロックチェーンの課題を解決し、利点を活かす。スタートアップ2社の動き

ブロックチェーンにおけるTCP的存在を担う「Polkadot」とは

廣瀬:では、ディスカッションに入ります。最初に渡辺さんにお伺いしたいのですが、Polkadotはインターオペラビリティのブロックチェーンネットワークですよね。視聴者のみなさんの中にはPolkadotをご存じない方がいるかもしれないので、少し補足説明していただけますか?

渡辺:Polkadotはギャビン・ウッド氏を中心に、2015年ほどからスタートしたもので、ローンチしたのは2020年4月です。初登場でいきなりCoinMarketCapの10位に入り、その後も順位は伸び続けて現在は5位前後をマークしています。将来的には2位に到達してもおかしくないと思っていますね。

現在、ビットコインとイーサリアム、ビットコインとEOSといったブロックチェーン同士はお互いつながっていません。そのため、インターネットで例えると日本からアメリカのニュースが見られない、アメリカから日本のアニメが見られないといったような状況が頻発しています。

ネットの場合はTCPという共通のプロトコルができたことで改善されましたが、ブロックチェーンの世界にはTCPにあたるプロトコルがまだ存在していません。そんな中で、今後はPolkadotがブロックチェーンの「TCP」になるのではと思っています。我々が開発しているPlasmはもちろん、ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンにおいても、将来的にはPolkadotを経由してデータやトークンの受け渡しができるようになるはずです。

ただ、Polkadotはリレーさせることにフォーカスしているので、アプリケーション開発はできません。一方でPolkadotとつながっているチェーン上で開発しようと思うと、スループット、コスト、ファイナリティの問題が出てきます。Plasmはその3つの性能にフォーカスして開発し、問題を先回りして解決しようとしているプロダクトです。

廣瀬:イーサリアム上でDappを作ったときに、トランザクションが最終的にファイナリティを持つようになるには相当な時間がかかりますから、それを誤魔化すためにクッション材としてノードに溜めておくといったことをしていましたよね。それがPlasmを使えば応答速度も速くなるし、ファイナリティがある状態でトランザクションも返ってくるということですか?

渡辺:その通りです。グローバルで見るとPolkadotは一番伸びていると言っても過言ではないので、この状況下の中でしっかり結果を出すということが今の我々にとって一番重要なことです。

また、中国にしろアメリカにしろヨーロッパにしろ、現在各国にはコアとなるレイヤー1のブロックチェーンがあるのですが、日本にはまだありません。今後日本がブロックチェーンのコアに向かうには、オープンソースで日本発のレイヤー1パブリックブロックチェーンをしっかり作ることが大切なのではと思います。

ブロックチェーンのスケーラビリティを飛躍させるために

廣瀬:実際にエンタープライズ企業の方々から相談を受けると、「車にあらかじめウォレットが組み込まれていて、ガソリンスタンドでガソリンを入れただけで決済ができたら……」といったことを想像される方が多いんですよ。こういったいわゆる夢のようなことは、Plasmを用いたら実現できるものなのでしょうか。

渡辺:まず、人ではなくモノやIoTが財布を持てるようになったのは、ブロックチェーンによって生まれた大きな変化ですよね。しかも財布のアドレスをしっかり追跡できて、中に何円あるかわかる状態になったのもイノベーションです。

今後、そういった形でお財布の数が増えていったときに間違いなく直面するのが、スループットと手数料の低さの問題です。ここでレイヤー2の技術がかなり必要とされると思っています。現在、全体の1%未満の人しかブロックチェーンを使っていないのにもうパンパンの状態なので、我々がそこを変えるために必要な技術を作っていかなければいけません。

廣瀬:ずっと言われ続けていた、スケーラビリティの問題をセカンドレイヤーが解決するという流れですね。

小説を1ページ読むたびにトークンを支払う収益モデルも可能にする

廣瀬:aggreさんと最初にお会いしたのは2年ほど前で、たまたま勉強会でお声掛けさせていただきました。そのときに読んだ資料の内容がまさにOSSの開発者を支援したいというDev Protocolのエコシステムそのものだったんです。ただ、この開発はしんどいし食べていけるのか?とお伺いしましたね(笑)。

aggre:なんとか食べていけました(笑)。

廣瀬:実際に80億ダウンロードもの利用があるわけですからね。

aggre:そうですね。少し触れておきたいのが、Dev Protocolはトークンエコノミーが不要なオープンソースに対しても、ファンディングの手段が限られているという問題を解決しようとしているということです。例えば単純な時刻操作ライブラリのようなオープンソースにもトークンエコノミーが要るかいうと、要らない。そういうオープンソースが大多数を占める一方、収益化の手段は限られています。

同じような課題を抱えている分野はほかにもあります。例えば学術論文はオープンアクセスやクリエイティブ・コモンズに善意で公開されていますが、それに対する金銭的リターンは特にありません。物事はオープンにしたほうが将来的な成長に寄与できる一方で、経済的見返りが無いのは足枷でしかありません。ほかの領域に関してもどんどんブロックチェーンを展開していく可能性があります。当社はその手始めとしてオープンソースからスタートしているんです。

廣瀬:Khaosの開発も着々と進んでいて夢が広がっていくのですが、僕はいずれペイパービューを実現できると思うんですよね。例えば小説を1ページ読むごとにトークンが発生するというのは、今までに無い概念です。そうなれば、小説を書く側としてはプラットフォームにとらわれない収益モデルができます。今までは出版のための費用としてかなりイニシャルコストがかかっていましたから、そこにも変化が生まれます。読者がトークンを使ってダイレクトに読み続けることができるような新しいモデルを、小さなところから始めるのは非常に大事です。

僕自身もすごくマイナーなライブラリを使うことがありますが、マイナーではあってもずっと使われているということは、開発者がきちんとメンテナンスをしてくれているということでもあるんですよね。そういう開発者に還元できるシステムが必要です。

aggre:継続的にドネーションする仕組みもありますが、開発者の努力が必要なんですよね。そこに対する違和感はずっと抱えていました。ブロックチェーンのスマートコントラクトによって課金の枠組みを自分たちで定義できるのは、すごく面白い部分だなと思っています。

国内外で大きく異なるブロックチェーン事情

3日間で20億円ロックされるほどに至ったスタートアップの海外戦略

廣瀬:今回ゲストの2社は海外からはすごく注目されているスタートアップ企業なのですが、日本ではそれほど知られていないのがもったいないですね。後半はこのあたりの海外と国内の事情について、生々しい話もお伺いしようと思います。

まず、ステイクテクノロジーズさんの場合はなぜ海外で受け入れられたのか、ターゲットは最初から海外だったのか、どんなストラテジーがあったのかをお聞かせいただけますか?

渡辺:ターゲットは海外のユーザーが98%以上ですね。最近イーサリアムとPolkadot上にDappを作ったのですが、3日間ほどで大体20億円相当のアセットがロックされています。サイトは英語版しか作っていないので、ほとんど海外からでしょう。

海外進出を目指そうと思ったのは、日本にマーケットが無いからです。僕はもともとアメリカのシリコンバレーで働いていたのですが、日本に帰ってきたときに大きなギャップを感じました。

戦略面で言えば、日本では今DXがムーブメントになっていてエンタープライズ向けに何かしらのブロックチェーンをインクリメントするのがトレンドですが、海外ではDXをしていては勝てません。例えば上海なんかはDXされた世界が標準だからです。GoogleにしてもFacebookにしても最初から自分たちでプロダクトを作っていますし、それが評価される世界です。スケールしないものは活躍できない世界だと感じています。

海外ではビジネス的にもプロトコルを重視せざるをえない

廣瀬:イーサリアムの初期に国内で活動していたスタートアップの方々は、現在ほとんどシンガポールにいるんですよね。

それに、プロトコルなりフレームで勝負をするというのはすごく大事だと思いました。トランザクションそのものが自動化するにはまだまだ長い時間がかかりますが、その仲立ちとなるフレームやプロトコルは重要ですから。

渡辺:Webの世界はHTTPやTCP/IPがあまりお金になっておらず、その上に乗っているYouTubeなどが莫大な利益を生み出していますが、ブロックチェーンの世界は真逆です。プロトコルが非常に儲かっていてその上のサービスの利益は薄い状態なので、プロトコルを作りにいくしかないというビジネス的な判断もあります。

廣瀬:トランザクション単位でフィーが入る新しいシステムですから、上手く設計すれば十分な利益を得られるということですよね。

渡辺:3日で20億円もプロダクトの上に乗ってきたのは僕もびっくりしましたよ。

廣瀬:それだけプロトコルへの期待値が上がっているというのはありがたいことですが、この状況の知らない人も日本にはいると思います。

渡辺:時間軸がかなり異なっているので、もっと伝えていかなければいけませんね。海外から日本に来る技術は2年遅れのものですから、日本に合わせていると勝てなくなってしまいます。海外のイケてる企業が日本にやってきて日本のスタートアップを駆逐していく未来は目に見えているので、何とかする必要があります。

廣瀬:aggreさんは海外と日本というテーマではいかがですか?

aggre:ターゲットは日本も海外も区別せずにスタートしましたが、僕たちのビジネスの対象は「世界共通のオープンソースの収益化」だからプロダクトも英語であるべきだという思いがあり、当初からWebページも英語だけでしたね。英語は一番コモディティな言語ですし。

その後も英語で情報発信し続けて当初は無反応な状態ではあったのですが、我々のDappが知られるようになってきてからはユーザーが自ら情報をキャッチアップして、コミュニティが形成されてきているという感じです。

人のアクティビティが全てトークン化される可能性の先にあるもの

廣瀬:妄想で構わないのですが、例えばお二人がブロックチェーンに全く関係のない企業と協業して日本でビジネスをするとなったら、やってみたいことはありますか?

渡辺:我々としてはPlasmの上に日本のユースケースをどんどん載せていきたいです。まだ5年ほど先のことかもしれませんが、レイヤー1のブロックチェーンを作っている人たちが僕たちのプロダクトに載せたいと思ってくれたらうれしいですね。

個人的に危惧しているのはガラパゴス化です。日本で叫ばれているDXという単語は、少なくても僕の周りの海外投資家やコミュニティ内ではまず聞いたことがありません。これはすでにブロックチェーンの盛んな都市がDX化されているということだと思うので、上海やスイス、シリコンバレーの人たちがデフォルトでやっていることを、翻訳者として日本に伝えていきたいという思いがあります。

廣瀬:aggreさんはいかがですか?Kahosがつながる先のコンテンツやモノにおいて、人のアクティビティが全てトークンになる可能性が広がっていると思いますが、こんな会社と組んでこんなことをやりたいという思いはありますか?

aggre:Dev Protocolの思想は「全人類クリエイター」です。全ての人がクリエイティブなことをしていれば生活できるような世界にしたい。各々作りたいものは違うはずなので、khaosがいろいろなものごとに対応していくことになります。

日本国内のコンテンツであっても、イーサリアムのメインネットにつなげれば国内でトークナイズしたものが海外のユーザーに支援してもらえるということは十分あり得ると思いますよ。

廣瀬:日本はクリエイター国家ですからね。フォトグラファーの方や、いわゆる絵師さんなんかはツイッターなんかにすごくクオリティの高いイラストをアップしているじゃないですか。それはお金を払ってもいいものだし、書きかけの作品を完成までステークするといったこともできますよね。

aggre:まさにそういうことをしていきたいですね。

廣瀬:例えば100枚ロットの絵なんかもステークすることができますよね。閲覧権を譲ってもらうことによって価値の移転ができるトークンそのものになるので、絵画はすごくブロックチェーンに向いている気がします。今日のイベントをご覧になっている企業の中に、そういう提携ができそうだと思った方がいればぜひaggreさんに連絡を取ってみてください。

aggre:あと、僕がkhaosでやってみたいと思うのが、金融におけるエスクロー取引のクリエイター版です。YouTubeの動画が100万回再生されたら報酬を支払うといった形の取引はオラクルできますよね。同じようにトークンに関するデータによって、エスクロー取引ができるようになればと考えています。

質疑応答

ブロックチェーンによってスタートアップに大きなチャンスが訪れる

質問者:ブロックチェーンで実現したい未来についてできるだけ具体的に教えてください。 渡辺:コロナの状況下でいろいろなものごとが監視主義に近づきあるというのが個人的なテーマの一つになっています。こうしてオンラインで話している情報はもちろん、自分の体温なんかも取得されているかもしれません。そうなると、自分よりも自分のことを知っている他者が現れる可能性が出てきます。もちろん権力を持つ側は情報を持つかもしれませんが、逆に民衆が権力側を監視するという状況も起こり得ます。これは今までになかったことですし、ブロックチェーンが生きるシーンの一つだと思います。

例えば香港でデモがあると、駅に乗るときにICカードは情報を取得されてしまうので使わないんですよ。そこをビットコインでペイできたりしたらもっといいかもしれません。そういう形のテクノロジーを提供したいという思いで、パブリックブロックチェーンを手掛けています。

廣瀬:aggreさんはいかがですか?

aggre:ブロックチェーンはトラストレスが保証されているという側面が強く、今までリアルで行っていたことをブロックチェーンに置き換えてコスト削減できるのがまず一つの利点です。その上で、自分たちで法律を作れるというのも大きな強みです。この特性を使うと、業務改善だけではなく今までできなかったことが新たにできるようにもなる。思考放棄しないためのツールになると思うんです。金融のようなクリティカルな取引を行うにあたって、スタートアップを信用しろと言っても本来は無理な話ですが、ブロックチェーンならそれができる。同じことがほかの領域でも起こるはずです。

廣瀬:パブリックネットワークにおけるブロックチェーンの面白みは、スタートアップにチャンスがあるという点に尽きますね。支援する側としても、今まで思ってもみなかったようなビジネスモデルが誕生するのは本当に楽しいです。

海外で活躍する2社が特に注目する競合サービス

質問者:競合で注目しているサービスを教えてください。 渡辺:Polkadot上の競合という意味では、当社と同じようなスマートコントラクトのプラットフォームを提供しているEdgewareやMoonbeamがあるので、差別化していかなければいけないと思っています。

さらに大きな軸で考えると、中国の国家ブロックチェーンやテンセントのブロックチェーンはよく見ているほうですね。ああいう大規模にやろうとしているところは競合になるのだろうと思っています。

廣瀬:aggreさんはいかがですか?

aggre:Dev Protocolに関して言えば、現在同類のプロトコルは存在しないと思っています。広い意味ではPatreonという、データに対してサブスクリプションで支援するサービスであったり、GitHubスポンサーあたりが競合になるかなと思います。

廣瀬:実際に層が被りはしないと思いますが、ステイクテクノロジーズさんも競合と言えば競合ですよね。

aggre:オープンソースでDappを作っていたりコントラクトを書いているような人に対しては、ファンディングの手段として競合になるかもしれませんね。

ペイメントではなくステーキングで新たなビジネスを生み出したい

質問者:​今後の日本国内の事業展望はどのように考えていらっしゃいますか? aggre:Dev Protocolは応援の必要な産業や地域コミュニティなどに展開できるとよいなと思います。。例えば年収1200万円稼いでいるサラリーマンと地元でコロッケ屋を営んでいるおばちゃんだったら、後者のような人たちを応援したいです。

あとは日本においても、「これまでペイメントがなかなか受けられなかったけれども、ステーキングなら多くのトランザクションが生まれる」という業界はたくさんありそうです。

廣瀬:国内でも思ってもみない組み合わせで新しいビジネスモデルが生まれる可能性はありますよね。その中でまずはオープンソースという感じなんですか?

aggre:オープンソースというコミュニティそのものが我々にとって接しやすかったので、そこからスタートしました。開発者はブロックチェーンやテクニカルなことに対してフレンドリーな人たちですから。

ただ、会社としてはやはりアートからスタートしています。アーティストや伝統職人の人が生み出しているものの文化的価値に対して経済的評価が見合っていないという事実に疑問を抱いていました。

最後に

MS4SUの支援スタンスとブロックチェーンに活用すると便利なツール

廣瀬:最後に、お二方がMS4SUと実際にお付き合いをしてみてどうだったか、一言感想をいただけますでしょうか。

渡辺:忌憚なく言えば、腰が低くてびっくりしました(笑)。本当にスタートアップのことを親身になって考えてサポートしてくれます。スタートアップというものは事業で行ったり来たりを繰り返してしまうものなのですが、それもわかった上で対応してくれるのはうれしいですね。Azureを使いながらPlasmを誰もが簡単に触れるようなサービスにしたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。

廣瀬:aggreさんは事業の立ち上げからMicrosoftがご一緒させていただいていましたが、ブロックチェーン周りのためにご用意しているプロダクトについても、何かご意見があれば聞かせてください。

aggre:まず利用した感想は渡辺さんと同じで、「スタートアップに対してこんなに支援してくれるのか」と思いました。しかもそれがズレていない。僕たちがやりたいこと、できることに対してサポートをしてくれます。ビジネスモデルに対するフィードバックをしていただけたりもします。

廣瀬:ビジネスのマッチングもしますしね。

aggre:プロダクトに関しては、僕たちはAzure Blockchain Service(ABS)を使っています。ステーキングはイーサリアムのメインネットを使っているのでステーキング用にABSを使っているわけではないのですが、例えばコントラクトのテストをするときにABSはすごく重宝しますね。テストを全部回すと200イーサくらい使ってしまうので。

廣瀬:結構キツいですね。

aggre:あとはブロックチェーンデータマネージャというものがありますよね。

廣瀬:トランザクションが到着したイベントを発火するものですね。

aggre:あれは確か今はABSでしか使えないものですが、性質的にはメインネットともつなげられますよね?

廣瀬:よくおわかりですね、その通りです。メインネットのノードで到着したらあとはトランザクションが到着したとトリガリングして、Azure Functionsのようなサーバーレス処理をするとか、メールの自動送付をするとか、Notificationを出すとか、いろいろできますね。

aggre:今はコンソーシアムのネットワーク上で動いているようなものをいずれはメインネットに対しても提供できるのだろうと思っているので、そこがMicrosoftさんに期待しているところですね。

廣瀬:なるほど。ではこれでディスカッションを終了します。本日はどうもありがとうございました!

※本イベントはオンライン、YouTubeライブで行われました。

FLEXY主催

次回のCTO meetupは?

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過去のイベント一覧は、connpassをご覧ください。

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