マルチブランドを展開するD2C企業のCTOが考える「エンジニア的思考」の重要性――MOON-X・塩谷将史さん

2019年8月に設立されたMOON-X株式会社。メーカーとのコラボによってクラフトビールやスキンケアで複数のブランドを立ち上げ、D2C事業を展開しています。

今回お話を伺った塩谷さんは、同社の共同創業者及びCTOとしてデジタル・テクノロジー領域を担っていらっしゃいます。これまでさまざまなプロジェクトに携わってきた塩谷さんが、D2C事業に惹かれた理由は何だったのでしょうか。D2Cの文脈において、エンジニアがどのような役割を求められるのかについてもお伺いしました。

塩谷 将史
【CTOインタビュー】
MOON-X株式会社 Co-founder CTO 塩谷 将史さん
大学卒業後、Full Stack Engineerとして6年間様々なシステム、ネットサービスの開発に従事。2008年に楽天に入社し、主に楽天の広告プラットフォームやAd Tech・Big Data系システムをプロデュースし、約50名規模の開発組織をマネジメント。2012年シンガポール支社立ち上げに参画し、3年間でシンガポール・日本・インドの3拠点で約100名の多国籍・多拠点エンジニア組織を0から立ち上げ。楽天退職後、2016年に株式会社アペルザを共同創業し取締役CTOに就任。製造業に特化したサーチエンジン、マーケットプレイス、クラウドサービスなどを立ち上げる。2019年8月にD2Cのマルチブランドを展開するMOON-X株式会社を共同創業。

デジタルを強みとしながらこだわりの日本製品を全国に届けたい


―― MOON-Xでは現在クラフトビールの「CRAFT X」とスキンケアの「BITOKA」「SKIN X」などのブランドを立ち上げていますが、それぞれどのようなコンセプトで誕生したものなのでしょうか?

MOON-X株式会社 Co-founder 塩谷 将史さん(以下、塩谷): クラフトXに関しては非常に単純で、「消費者に本当に美味しいビールを届けること」を目的としています。現在、日本の消費者が飲んでいるビールの98%が大手メーカーによる大量生産のビールです。一方でクラフトビールは愛好家こそ多いもののまだまだ知名度が低く、入手も難しい。こうした現状を鑑みてブランドを立ち上げました。日本には美味しいクラフトビールを造っているメーカーが多いので、そういった企業とのコラボレーションという形で提供しています。コロナで宅飲み需要が伸びる以前から定期購入も行っており、毎月美味しいビールが届くライフスタイルを作っていきたいというブランドストーリーを構築しています。

BITOKAは女性用スキンケアブランドで、「花蜜酵母エッセンス」を展開しています。これは「水に濡れると透明になる」という特性を持つサンカヨウという花の花蜜酵母を抽出して開発した化粧品です。花蜜酵母を使ったスキンケア商品はまだ自社製品以外には恐らく無いと思います。これは製造メーカーから提案を受けて商品化に踏み切ったもので、完全にプロダクトアウトの商品ですね。
※ 「水に濡れると透明になる」という特性を持つ花蜜

塩谷: SKIN Xは男性用のスキンケアブランドです。P&Gで男性向け製品を取り扱ってきた代表の長谷川が、「男性のためだけに作られたスキンケア商品を作りたい」という思いで立ち上げ、拭き取り化粧水や乳液を開発しました。まだまだ市場は成熟しておらず、女性向けの製品をメンズ製品として販売しているだけのブランドもあるようなので、長谷川が納得できる製品を展開することにこだわっています。

―― 塩谷さんも代表の長谷川さんも以前は楽天に所属していた経験があり、楽天市場のような巨大ECに携わっておられました。そういう方々がメーカーとのコラボレーションでブランドを立ち上げるにあたっては、どのような戦略を考えていたのでしょうか?

塩谷:プロダクトアウトであれマーケットインであれ、まずは「良いモノを作る」と思いが根底にあります。そうでなければそもそも売れませんし、仮に売れても使われません。

そこに戦略があるとすれば、ピュア・メイド・イン・ジャパンにこだわるということですね。例えばいま中国の消費者市場において中国メーカーの製品もたくさん出てきて伸びていますが、まだまだ日本製に対する信頼は揺るぎないものです。

D2C事業としては、ECに限らず自分たちがコントロールできる特定の流通ルートを確保することも重要視しています。伝統的な小売業はどうしてもメーカーよりも卸売、あるいは小売のほうが強いパワーバランスになってしまうので、そのような構造には当面乗らずに自分たちで直接消費者へ売ることにしています。 また、普通のメーカーはテレビCMや雑誌、交通広告などをPRに利用しますが、現在多くの人が接しているメディアはSNSやアプリです。一方でデジタルを中心としたPR展開を実践できているメーカーはさほど多くありません。我々のバックグラウンドはデジタルの世界ですから、自ずと戦略上の強みになっていますね。

―― 例えばクラフトビールはどのように商品開発を行っているのでしょうか。

塩谷: 常陸野ネストビールのブルワリーと最初にコラボしたときは、先方の社長やスタッフの方々と一緒にいろいろなビールを飲み比べしました。どういうビールを目指したいのかコンセプトを明確にした上で、最後の製造をプロにお任せした感じです。先方も数十年の経験がありますから、どんなビールが消費者に喜ばれるのかアドバイスを受けながら作り上げていきました。

既存事業のデジタル化に挑戦できるのがD2Cの魅力だった


―― そもそもなぜ複数ブランドを展開するD2C企業を立ち上げようと思ったのか、ストーリーをお聞かせいただけますか?

塩谷: もともと代表の長谷川とは、前職の楽天で一緒に働いていました。私は2012年にシンガポール支社立ち上げのために海外赴任をしたのですが、たまたま立ち上げメンバーに長谷川がいたのが出会いです。ほぼ同年代でお互いに起業したいという思いがあったため当時からウマが合い、「いつか一緒に何かやれたらいいね」と話していました。

二人とも楽天をほぼ同じタイミングで退職してからは別々に活動をしていましたが、3、4年ぶりに再会した際、長谷川からMOON-Xの構想を聞いて共同創業を決意しました。彼はブランドストーリーを創り上げたり商品企画をするマーケティングの立場でしたから、テクノロジーやデジタル面を私が助ける形で、マーケティングとデジタルを両輪で進めていくことになりました。

―― D2C事業をスタートするにあたって、テクノロジーの観点ではどんな魅力を感じましたか?

塩谷: 私はずっとエンジニアとしてキャリアを重ねてきてCTOの経験もありますが、もともと技術開発をすることよりも、テクノロジーの知見を持つ立場として新しい仕組みやビジネス、プラットフォームを世の中に出すこと自体が好きなタイプです。新しく事業を始めるにあたっても、そういうことをやりたいという思いがまずありました。テクノロジーはあくまでツールなんです。

キャリアとしてもたまたまECや広告、デジタルマーケティングといった領域に携わってきたので、D2Cでも自分が持っている知見を活かせそうだと感じました。AIなど高度な技術自体をテーマにした事業より、「小売やブランド事業がデジタル化された世界はどうあるべきか」という部分にエンジニアのバックグラウンドを持つ人間として挑戦できる。そこが面白いと感じた部分ですね。

非エンジニア組織にもエンジニア的思考が求められる時代がやってくる


―― D2C事業を手掛ける企業におけるエンジニアの存在とはどういうものなのでしょうか。

塩谷: D2C事業のスピード感を考えると、組織にエンジニアチームを抱えて自前で開発をする前提で事業を進めるのは正直キツいです。実際、困っている経営者も多いのではないでしょうか。もちろんパートナー企業は引く手あまたですし、どんなことをしたいのか明確に決まってさえいれば、業務委託という形でエンジニアを確保する手もあります。

しかし大事なのは、頼れるエンジニアがいるかどうかではなく、組織にエンジニア的思考を持つ人がいるかどうかです。ECサイトにしてもデジタルマーケティングツールにしてもそうなのですが、「これを作りたい」という明確な計画に辿りつくまでに必要とする時間は、エンジニアと非エンジニアでは雲泥の差があります。技術をベースにした発想力が違うからです。

そういう意味でも、外部のエンジニアにどういうスピード感や温度感でどんな部分を任せるのか、迅速かつ的確に決めるエンジニア的思考の旗振り役が非常に重要です。

当社の場合もエンジニアは私を含めて2名です。テックスタートアップなどエンジニアが多い組織が抱えるようなマネジメントや評価制度に関する悩みは今の所ありませんが、外注や業務委託などの協力者を含めたエンジニアチームをどう作るのかは重要視しています。

―― 今のお話を踏まえると、今後はどんな企業にもエンジニア的思考の人材が求められるようになりそうですね。

塩谷: そういう意味では、CTOという役職も広義に捉えたほうがいいと思います。テックスタートアップにおけるエンジニアのトップとしてのCTOだけではなく、実際にはD2Cも含めたメーカーにおけるCTOもいますよね。メーカーでなくとも、例えばタクシー会社がUberに対抗するためにアプリ事業を展開しようとしたら、やはりCTOやCIOが必要です。

そうなると、やはりノンテックの既存企業の経営者はCTOやエンジニアを社内に入れることを考えるべきです。逆にエンジニアも今後のキャリアとしてCTOになるという方向性を考えたとき、選択肢は必ずしもテックスタートアップだけではありません。副業としてテックスタートアップの技術顧問をやりながら伝統産業などにも関わるような、二足のわらじも面白いと思います。 もちろんエンジニアがもともとエンジニア組織ではない組織にジョインするのは非常にストレスがありますし、ハードルも高いです。コミュニケーションの取り方一つにしても「ほかの社員はSlackが使えない」といった話が出てくるかもしれません。それでもエンジニアと既存企業が融合していかないと、日本の産業自体がどんどん取り残されてしまいます。

―― テクノロジー観点から見たときに今後10年で世の中がどう変わっていくか、予想があれば教えてください。

塩谷: 例えば10年後は、スマートシティやドローンによる宅配など、今は「無理だ」と思われているようなことが当たり前になる気がします。さらに20年後、30年後にはテクノロジーが当たり前の存在になって、企業にわざわざ技術責任者を置かなくなるかもしれません。働く人全員がエンジニア的思考や経験を持つ世界ですね。

一時期MBAが流行したように、エンジニアリングのバックグラウンド無しに経営者を務めるなんてありえない、ということになったら面白いです。

現在は世界的にも珍しい事業の在り方が成功するかどうか見定める段階


―― 最後に、今後のMOON-Xの展望についてお聞かせください。

塩谷: 現在はスタートアップ的なプロセスの中にいて、自分たちの作った商品やビジネスモデルが世の中に受け入れられるのかどうかを見定めている段階ですね。上手くいけば会社は成長しますし、例えば海外展開をしたりブランドのラインナップを増やしたり、販売チャネルを増やすといった戦略を立てるでしょう。

ただ、そもそもの話としてマルチブランドを立ち上げてD2C事業を推進している企業は世界中を見てもなかなか無いんですよね。そういう意味では、事業自体がかなりチャレンジングだなと思っています。



編集部記:

ーー 貴重なお話有り難うございました!

MOON-X株式会社 Co-founder CTO 塩谷 将史さんが登壇されたCTO meetupのイベントレポートもぜひご覧ください。

(前編)アフターコロナを見据えたエンジニアマネジメント~組織と技術ブランディングについて~
https://flxy.jp/article/12660


(後編)アフターコロナを見据えたエンジニアマネジメント~組織と技術ブランディングについて~
https://flxy.jp/article/13506


この記事を書いた人
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